(※写真はイメージです/PIXTA)

高齢の親との同居は、生活面の安心につながる一方、家事や見守り、通院の付き添いなどが特定の家族に集中することもあります。親を残して家を出ることに罪悪感を覚え、限界を感じても同居を続けてしまう人も少なくありません。

78歳母「あなたまでいなくなったら、私はどうすればいいの」

香織さん(仮名・48歳)は、78歳の母・文子さん(仮名)と二人で暮らしていました。独身で、勤務先では経理部門の管理職を務めています。月収は約40万円。文子さんの年金は月14万円ほどでした。

 

父が亡くなったあと、香織さんは「母を一人にするのは心配だから」と実家に残りました。当初は、母娘で支え合える暮らしになると思っていたといいます。

 

文子さんは食事や着替えを一人でこなせ、要介護認定も受けていません。しかし、年齢を重ねるにつれて、買い物や通院、役所の手続きなどを香織さんに頼る場面が増えていきました。

 

「病院に電話しておいて」

 

「この手紙、何が書いてあるのかわからない」

 

仕事中にも連絡が入り、すぐに返信しないと、帰宅後に不満を言われます。

 

「どうして心配してくれないの?」

 

香織さんは責められるたびに謝りました。母が不安なのだと理解していたからです。

 

家計にも、明確な分担はありませんでした。文子さんは年金から固定資産税や自分の医療費を支払っていましたが、食費や光熱費、古くなった住宅設備の交換費用は、主に香織さんが負担していました。

 

月収40万円があるため、暮らしに困るほどではありません。それでも残業を終えて帰宅してから夕食を作り、母の話を聞き、翌日の予定を確認する生活は、香織さんの心身に少しずつ負担を積み重ねていきました。

 

休日も自由には使えません。

 

「明日はどこかへ連れて行って」

 

「今週は疲れているから、家で休みたい」

 

香織さんがそう答えると、文子さんは黙り込みました。

 

「私が邪魔なのね」

 

その言葉を聞くと、香織さんは予定を取りやめ、母と買い物へ出かけました。

 

厚生労働省『2022(令和4)年 国民生活基礎調査』によると、要介護者等と主な介護者が同居している割合は45.9%です。文子さんは要介護状態ではありませんでしたが、家族による支援は、認定を受ける前から家事や外出、手続きの補助という形で始まることがあります。

 

香織さんが別居を考えるようになったのは、職場で昇進の打診を受けたことがきっかけでした。引き受ければ帰宅が遅くなる日や出張が増える可能性があります。

 

その話を母にすると、文子さんは言いました。

 

「そんなに仕事を増やしてどうするの。あなたまでいなくなったら、私はどうすればいいの」

 

香織さんは、その夜ほとんど眠れませんでした。

 

母を支えなければならないという思いと、自分の人生まで諦めたくないという気持ちの間で、身動きが取れなくなっていたのです。

 

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