「孫のためなら」と引き受け…娘家族で埋まっていく予定表
正明さん(仮名・66歳)と妻の洋子さん(仮名・65歳)は、定年後の生活を楽しみにしていた夫婦です。夫婦の年金収入は月35万円ほどで、貯金も約5,300万円。
住宅ローンは完済しており、家計に大きな不安はありませんでした。現役時代は仕事と子育てに追われていたため、退職後は旅行や趣味、友人との付き合いをゆっくり楽しむつもりでした。
ところが、長女が職場復帰したころから生活は変わり始めます。長女夫婦には幼い子どもが二人おり、保育園からの急な呼び出しや残業時の迎えを頼まれることが増えました。
最初は「今日だけお願い」と言われる程度で、正明さん夫婦も喜んで引き受けていました。孫はかわいく、娘夫婦が共働きで頑張っていることも分かっていたからです。
しかし、依頼は次第に日常化していきました。平日の送迎、発熱時の預かり、長期休暇中の世話、週末の外出時の留守番。
気づけば夫婦の予定表は、孫の習い事や保育園行事、娘夫婦の仕事の都合で埋まるようになっていました。旅行を計画しても「その週はどうしてもお願いしたい」と言われると断れず、友人との約束を延期することもありました。
正明さん夫婦の場合、経済的に困っていたわけではありませんが、時間と体力を大きく削られていました。
幼い孫と長時間過ごすには、食事、着替え、遊び相手、けがへの注意まで必要です。楽しいだけでは済まない日も増えていきました。
「また来るのか……」
ある金曜の夜、娘から週末の預かりを頼む連絡が入ったとき、正明さんは思わずそうつぶやきました。すぐに「そんなことを言うなんて」と自分を責めましたが、洋子さんも同じ気持ちでした。
孫が嫌いになったわけではありません。ただ、連絡が来るたびに胸が重くなるほど、夫婦は疲れていたのです。
