子どもの独立を機に、郊外から「都心マンション」への住み替え
高橋正人さん(仮名/65歳)は、妻・美智子さん(仮名/67歳)と都内で二人暮らしです。夫婦ともに長年、公務員として勤務してきました。
正人さんが48歳のころ、二人の子どもたちが独立したことをきっかけに生活を見直します。それまで郊外の戸建てに住んでいましたが、毎朝1時間以上かかる満員電車での通勤に疲れ切っていたからです。
「どうせ子どもたちも巣立ったんだから」
そう考え、思い切って職場に近い都心の小さなマンションを6,000万円で購入します。教育費の負担がなくなったこともあり、家計を見直した結果、住宅ローンは十分返済できると判断したのです。
そして17年後、定年退職を迎えた夫婦は新たな生活を考えはじめます。
「仕事も辞めたし、もう都心に住み続ける必要はない」
暖かい地方へ移住し、空き家を購入してリノベーションしながら、ゆっくり暮らそうと話し合っていました。
夫婦の年金は合わせて月約32万円、退職金は二人合わせて約4,000万円あります。夫婦でコツコツ積立続けてきた金融資産も5,000万円を超え。家計簿は数字に強い正人さんが毎月管理してきました。
贅沢をするタイプでもないため、老後資金に大きな不安はありません。しかし、この物価高。何歳まで生きるかわからないうえ、なにが起こるかわからないため、現在の資産額だけで本当に死ぬまで賄えるのかといった思いはありました。
都心に買ったマンションは売却予定でしたが、ローン残高が返済できれば十分という程度にしか考えていませんでした。試しに不動産会社へ査定を依頼した正人さんは、担当者から提示された数字を見て思わず聞き返します。
「えっ……何かの間違いじゃありませんか?」
通帳に並んだ9桁の数字…富裕層の仲間入りへ
不動産会社からの査定の目安は少なくとも1億円を超えるということでした。購入時6,000万円だったマンションが、都心部の不動産価格高騰によって、倍ほどの価格で取引されていたのです。
「本当にこの価格で売れるの……?」
半信半疑のまま売却活動を始めると、予想以上に早く買い手が見つかりました。約1億2,000万円で契約手続きを行い、引き渡しの日を迎えます。
数日後、銀行へ記帳に行った正人さんはようやく実感することに。通帳には、これまで見たこともない9桁の数字が並んでおり、手が震えるのを感じました。
「何かの間違いに決まっている……」そう呟きながらも、通帳の数字を前に、思わず笑みがこぼれます。
住宅ローンは約3,000万円残っていましたが、一括返済しました。譲渡所得に対する税金や諸経費を支払っても、手元には6,000万円以上が残ったのです。
それまで保有していた金融資産と合わせると、総資産は1億円を大きく超えることになります。地方への移住資金どころか、老後の資金計画そのものが一変しました。
「こんなことになるなんて……」
夫婦は老後のお金の不安はなくなって嬉しい半面、自分たちが富裕層の仲間入りすることになることについて実感できませんでした。
