「少しだけ助けてほしい」…月4万円の仕送りが始まった理由
拓也さん(仮名・48歳)は、数年前から父の正男さん(仮名・76歳)へ毎月4万円を仕送りしていました。
母はすでに亡くなり、正男さんは古い実家で一人暮らしをしています。年金だけでも最低限の生活はできると言っていましたが、給湯器の交換や通院費が重なった時期に、正男さんから「少しだけ助けてほしい」と連絡があったのです。
拓也さんにも住宅ローンと中学生の子どもの教育費があり、月4万円は決して軽い負担ではありませんでした。それでも、父が頭を下げるように頼んできたことが気になり、断ることはできませんでした。正男さんは毎月、振り込みのあとに短いメッセージを送ってきました。
「助かった。ありがとう」
その一文を見るたび、拓也さんは複雑な気持ちになりました。父を支えられている安堵と、自分の家計への不安が同時にありました。
総務省『家計調査(2025年)』によると、65歳以上の単身無職世帯では、可処分所得約11.8万円に対し、消費支出は約14.8万円となっており、平均で毎月約3.0万円の不足が生じています。一人暮らしの高齢者にとって、医療費や住まいの修繕費が重なれば、年金だけで暮らしを支えるのは簡単ではありません。
ただ、正男さんは詳しい家計を話そうとはしませんでした。拓也さんが「何に使っているの」と聞いても、「生活費だよ」とだけ答えます。遠慮しているのか、言いたくない事情があるのか、拓也さんには分かりませんでした。
そんな仕送りが6年続いたある日、正男さんから珍しく長めのメッセージが届きました。
「もう振り込まなくて大丈夫だ。今までありがとう」
拓也さんは胸騒ぎを覚え、すぐに電話をかけましたが、父は「本当に大丈夫だ」と繰り返すだけでした。その数か月後、正男さんは体調を崩して入院し、ほどなく亡くなりました。
葬儀を終え、拓也さんが実家を整理していたときです。押し入れの奥から、拓也さんの名前が書かれた封筒が見つかりました。中には、通帳のコピーと手紙が入っていました。そこには、仕送りのほとんどが使われず、別口座に残されていたことが記されていました。
「お前に迷惑をかけた分、少しでも返したかった」
拓也さんは、その一文を見て言葉を失いました。
