(※写真はイメージです/PIXTA)

ロシアは2016年の米大統領選挙では、米国の政治システムに不和の種をまくという目標を掲げ、様々な偽情報をインターネット上で拡散させたり、米国人になりすまして政治集会をおこなったりして、選挙を混乱させたといいます。元・陸上自衛隊東部方面総監の渡部悦和氏が著書『日本はすでに戦時下にある すべての領域が戦場になる「全領域戦」のリアル』(ワニプラス)で解説します。

中国による影響工作の目的とは?

■中国中央統一戦線工作部などによる工作

 

米国の情報機関と密接に連携している「オーストラリア戦略政策研究所(ASPI)」の分析によると、2020年米大統領選挙における影響工作は、「米国社会の分断を深めるという中国当局の政治的目的のために、中国にルーツをもつ個人や組織がおこなった多面的な不正活動」の一環だ。

 

つまり、中国による影響工作の目的は、特定の陣営に露骨に加担したり、特定の主張を支持したりするというよりも、米国内の政策形成に影響を及ぼし、中国の利益に反する政治家などに圧力をかけ、米国社会の亀裂を深めることにあった。

 

工作に関わったのは、中国共産党の工作機関である中央統戦部などの中国関連の組織だといわれている。習近平主席が「魔法の武器」と呼ぶ中央統戦部は、中国の国内外で情報戦、とくに影響工作をおこなっている。

 

大統領選挙に関連した影響工作は中央統戦部の活動のほんの一部だ。中国共産党にルーツをもつ約600の組織が米国社会に浸透し、様々な活動を実施している。

 

■Qアノン信奉者やトランプ支持者による偽情報の流布

 

典型的な偽情報のひとつに、「米大統領選挙で大規模な不正があり、じつはトランプが勝利していた」という主張がある。

 

このトランプ支持者がらみの偽情報が大きな影響力を発揮した要因は、トランプ前大統領自身が「米大統領選挙で大がかりな不正がおこなわれた。不正がなければ私が当選していた」という虚偽の主張を執拗にくりかえしたからだ。彼は選挙後も敗北を認めず、自説を主張し続けたために2021年1月6日の連邦議会議事堂襲撃事件が起こり、民主主義陣営の盟主としての米国の名誉は地に落ちてしまった。

 

米連邦最高裁は2021年3月8日、大統領選の敗北を認めず法廷闘争を続けるトランプ前大統領の陣営の訴えを退けた。ロイター通信によると、トランプ氏が敗北した中西部ウィスコンシン州での投票をめぐる訴訟で敗れたのだ。これで、トランプ氏の最後の挑戦が却下され、大統領選をめぐる一連の訴訟が終わった。

 

■Qアノンとは

 

中国やロシア以外にも複数の団体や個人が、2020年米大統領選挙に関連してSNSなどを通じて、偽情報を流布し、社会を混乱させた。これらの行為は、団体や個人による影響工作といえるだろう。彼らの代表がQアノンである。

 

Qアノンとは、2017年10月に匿名掲示板「4chan」に政府関係者「Q」を名乗る人物が登場し、米政府の機密だと主張する内容の投稿を始めたことに由来する。アノンは、匿名を意味する「アノニマス」に由来している。「Q」はトランプ政権内にいた者だと私は思っている。

 

Qアノンの主張を熱狂的に信じる支持者(熱心な層だけで米国に数十万人)はトランプ支持者と重なる。彼らは「米国や世界はディープ・ステート(DS:世界を操る影の政府)に支配されていて、DSと戦う救世主がトランプだ」という陰謀論を信じている。ちなみに、ロシアの偽情報では「DSと戦う救世主がプーチンとトランプだ」となっていて、Qアノンとロシアの関係が推察される。

 

Qアノンの熱心な信奉者の一部が過激化し、1月6日に発生した米連邦議会議事堂襲撃事件に加わり、逮捕・起訴されている。

 

このQアノンやトランプ支持者らの偽情報が大きな影響力を発揮した要因は、トランプ氏自身が「米大統領選挙で大がかりな不正がおこなわれた。不正がなければ私が当選していた」という根拠に乏しい主張を執拗にくりかえしたからだ。ちなみに、トランプ氏の主張については、彼の腹心であったウイリアム・バー司法長官が「トランプ氏の主張はでたらめだ」と否定している。

 

■QアノンやJアノンが信じた偽情報

 

日本にもQアノンの支持者が流布する偽情報を信じ、SNSで活発に偽情報を流す者が多数いるが、彼らはJアノンと呼ばれている。

 

私に対しても多くの熱狂的なJアノンから偽情報や陰謀論が届けられたが、私が「この情報は偽情報だ」と指摘すると、「お前は情報弱者だ。何もわかっていない」などの罵詈雑言が浴びせられた。罵詈雑言を浴びせてきたのはいわゆるネット右翼の人たちであった。

 

また、有名なベストセラー作家など保守の言論人も偽情報を信じこんでいる状況に、ただ唖然とするばかりであった。

 

Qアノンやトランプ支持者の間では、「バイデン氏が就任式で宣誓する1月20日に『嵐』が起き、全米規模で停電が起こる。軍関係者がトランプ氏の命令を受けて大統領就任式に介入し、バイデン夫妻やカマラ・ハリス副大統領候補、ナンシー・ペロシ下院議長、オバマ夫妻、クリントン夫妻など、『ディープ・ステート』に属するとQアノンが主張する全員を一網打尽にして逮捕する」という偽情報が拡散され、広く信じられていた。 

 

しかし、自分たちの予言に反して1月20日には何も起こらず、バイデン新大統領が就任した事態を受けて、Qアノン信奉者などは衝撃を受け混乱した。

 

Qアノン信奉者などは、さらに「3月4日にトランプ前大統領が再び就任する」というデマを広げたが、当然ながらこれも現実のものとはならず、再び衝撃を受け、挫折感を募らせた者も多数いたという。

 

一方、Jアノンの人たちには共通の特徴がある。いわゆるオールドメディア(大手の新聞社やテレビ局など)を「マスゴミ」と呼び、その報道を信用しない。彼らが頼るのはソーシャルメディアで流布される情報で、とくにユーチューブを使った番組(チャンネル)の影響が大きい。

 

オールドメディアの広告料が減少し、ソーシャルメディアの広告料が増加している事実は、オールドメディアの退潮とソーシャルメディアの興隆を証明している。

 

このオールドメディアの退潮には、朝日新聞に代表される左翼メディアの「事実に角度をつけて報道する」姿勢に対する不信感が背景にある。「この事実に角度をつける報道」を多くの人々は虚偽報道だと判断しているのだ。例えば、いわゆる従軍慰安婦や徴用工の問題で事実に反する反日報道をくりかえしているのが典型である。

 

渡部 悦和
前・富士通システム統合研究所安全保障研究所長
元ハーバード大学アジアセンター・シニアフェロー
元陸上自衛隊東部方面総監

 

 

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本連載は渡部悦和氏の著書『日本はすでに戦時下にある すべての領域が戦場になる「全領域戦」のリアル』(ワニプラス)より一部を抜粋し、再編集したものです。

日本はすでに戦時下にある

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渡部 悦和

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