ロシアはアメリカ大統領選挙でどのような情報工作を行ったのか (※写真はイメージです/PIXTA)

ロシアは2016年の米大統領選挙では、米国の政治システムに不和の種をまくという目標を掲げ、様々な偽情報をインターネット上で拡散させたり、米国人になりすまして政治集会をおこなったりして、選挙を混乱させたといいます。元・陸上自衛隊東部方面総監の渡部悦和氏が著書『日本はすでに戦時下にある すべての領域が戦場になる「全領域戦」のリアル』(ワニプラス)で解説します。

米国大統領選挙における影響工作

■2016年の米国大統領選挙における影響工作

 

影響工作が世界的に有名になったのは、2016年の米国大統領選におけるロシアの影響工作で、「ロシアゲート事件」とか「プロジェクト・ラクタ」と呼ばれている。ロシア参謀本部情報総局(GRU)は、ヒラリー・クリントン候補を落選させる目的で、彼女の選挙戦を不利にする偽情報などをSNSやウィキリークスなどに大量に流布した。

 

ロシアゲート事件を捜査した米国のロバート・モラー連邦特別検察官は、大陪審がロシア国籍の13人とロシア関連の3団体を起訴したと発表した。その団体のひとつがIRA(InternetResearch Agency)という組織である。

 

IRAは「トロール工場」と呼ばれている影響工作専門の組織で、その任務は「SNSなどを通じて世界中に偽情報を広めること」である。彼らは2016年の米大統領選挙では、米国の政治システムに不和の種をまくという目標を掲げ、様々な偽情報をインターネット上で拡散させたり、米国人になりすまして政治集会をおこなったりして、選挙を混乱させたという。そのために、IRAは、偽情報をSNSに投稿する目的で数百名の若者を雇い、24時間態勢で働かせていたという。

 

私は当時、米国で研究生活を送っていたので、ロシアの影響工作の凄まじさに驚いた。ロシアは、クリントン候補が人工肛門を装着しているとか、腹心の女性スタッフと同性愛にあるとか偽情報を流し続けた。そしてロシアは、民主党本部のサーバーに侵入し、大量の情報を窃取し、その情報を選挙結果に影響を与える絶妙なタイミングでウィキリークスを通じて漏洩した。

 

この工作は、明らかにクリントン候補にダメージを与え、結果としてトランプ大統領の誕生の一因になった。ロシアの影響工作は成功したのだ。

 

このロシアの影響工作を否定する日本人がいるが、世界の多くの専門家が認めているロシアの工作であることを強調しておきたい。

 

中国は、このロシアの影響工作から多くを学び、それを参考にして影響工作をおこなっていると言われている。

 

■2020年の米国大統領選挙における影響工作

 

2020年の米大統領選挙に際しても、諸外国による大量のメール送信やSNSなどに偽情報を流すなどの情報工作がなされた。以下、米国の情報機関や有力なメディアの情報をもとに、説明する。 

 

●米国家情報会議(NIC)の報告書

 

米大統領の諮問機関である国家情報会議の報告書「2020米大統領選挙に対する外国の脅威」は、影響工作について以下のような結論を公表している。

 

・外国関係者が投票プロセスの技術的側面に関与し、変更しようとした兆候はない。選挙プロセスを大規模に操作することは困難であった。

 

・ロシア政府組織が、プーチン大統領の承認に基づき、ジョー・バイデン候補と民主党を中傷し、トランプ前大統領を支持した。ロシア政府とその代理人は、一貫した方法で米国民の認識に影響を与え、米国の選挙プロセスに対する国民の信頼を損ない、米国の社会的政治的分断を悪化させる作戦をおこなった。バイデン候補に関する根拠のない主張や影響力のあるナラティブ(物語)を著名な米国の個人をターゲットに提供した。

 

・2016年とは異なり、選挙インフラにアクセスしようとするロシアの大規模なサイバー攻撃はみられなかった。

 

・イランがトランプ大統領の再選を妨げる多面的な影響工作を実施した。

 

・中国当局は、米大統領選挙の結果を変えようとする影響工作を検討したが実施しなかった。中国当局は、米国との関係の安定を求め、中国が干渉するリスクを冒すのが有利であるとは考えなかった。対象を絞った経済対策とロビー活動などの伝統的な手段が、中国にとって好ましい米国の対中政策を形成すると評価した。

 

しかし、以上のNICの結論で、中国が2020年の米大統領選挙に積極的な影響工作を実施しなかったとする結論には異論がある。例えば、米国の情報コミュニティを統括する米国家情報長官(当時)ジョーン・ラトクリフは、2020年12月3日付の『ウォール・ストリート・ジャーナル』に投稿し、中国の影響工作などの脅威について警告している。

 

ラトクリフは、〈中国当局は2020年、米国の数十人の議員と議会の補佐官を対象とする大規模な影響工作に従事したが、中国はロシアの6倍、イランの12倍の頻度で米国の国会議員を標的にしている。これらの脅威に対処するために、年間850億ドルのインテリジェンス予算内で資源をシフトし、中国に焦点をあてている。〉と記述している。

 

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    前・富士通システム統合研究所安全保障研究所長
    元ハーバード大学アジアセンター・シニアフェロー
    元陸上自衛隊東部方面総監

    1978(昭和53)年、東京大学卒業後、陸上自衛隊入隊。その後、外務省安全保障課出向、ドイツ連邦軍指揮幕僚大学留学、函館駐屯地司令、東京地方協力本部長、防衛研究所副所長、陸上幕僚監部装備部長、第2師団長、陸上幕僚副長を経て2011(平成23)年に東部方面総監。2013年退職。著書に『米中戦争―そのとき日本は』(講談社現代新書)、『中国人民解放軍の全貌』(扶桑社新書)、『日本の有事』(ワニブックス【PLUS】新書)、共著に『台湾有事と日本の安全保障』『現代戦争論―超「超限戦」』(ともにワニブックス【PLUS】新書)がある。

    著者紹介

    連載日本はあらゆる領域が戦場になる戦時下である

    本連載は渡部悦和氏の著書『日本はすでに戦時下にある すべての領域が戦場になる「全領域戦」のリアル』(ワニプラス)より一部を抜粋し、再編集したものです。

    日本はすでに戦時下にある

    日本はすでに戦時下にある

    渡部 悦和

    ワニブックス

    中国、ロシア、北朝鮮といった民主主義陣営の国家と対立する独愛的な国家に囲まれる日本の安全保障をめぐる状況は、かつてないほどに厳しいものになっている。 そして、日本人が平和だと思っている今この時点でも、この国では…

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