老後に変わった“持ち家”の意味
誠さん(仮名・66歳)と妻の弘子さん(仮名・65歳)は、昨年まで郊外の4LDK戸建てで暮らしていました。
家を建てたのは30代後半。2人の子どもを育てるためでした。
「当時は、“子どもたちが巣立っても、いつか孫を連れて帰ってくるだろう”と思っていたんです」
しかし、子どもたちは県外で家庭を持ち、実家に泊まりに来る機会は年に数回程度。気づけば、夫婦2人には広すぎる家になっていました。
夫婦の年金収入は月21万円ほど。ローンは完済済みでしたが、生活に余裕があるわけではありません。
「固定資産税、火災保険、庭の手入れ、外壁修繕…。家賃がない代わりに、家を維持するお金が結構かかるんですよ」
特に負担だったのは、築30年を超えたことによる修繕費でした。数年前には給湯器を交換。屋根や外壁も、今後補修が必要だと業者から説明を受けていました。
「見積もりを見て、正直ぞっとしました。何百万円単位の話になると言われて」
総務省『家計調査(2025年)』によると、65歳以上の夫婦のみ無職世帯の平均消費支出は月26万3,979円。年金だけでは賄いきれず、貯蓄を取り崩しながら生活している世帯が多いのが実情です。
田辺さん夫婦も、貯蓄を大きく減らすことへの不安を抱えていました。
さらに追い打ちをかけたのは、身体の変化です。弘子さんは膝を痛め、階段の上り下りがつらくなっていました。
「2階に洗濯物を取りに行くだけでも大変で…。でも、“家を手放す”なんて考えたこともなかったんです」
そんな夫婦の考えを変えたのは、ある冬の日でした。弘子さんが階段で足を踏み外し、転倒したのです。
大事には至らなかったものの、その瞬間、「この家で老後を続けるのは危ないかもしれない」と初めて現実的に考えるようになったといいます。
