スパイ防止法の制定と諜報機関の充実を急げ
我が国はスパイ天国だと言われている。我が国にはスパイを取り締まる法律「スパイ防止法」がないからだ。スパイ防止法がないということはスパイ罪の規定がないということである。
我が国では、国家の重要な情報や企業等の情報が不法に盗まれたとしても、その行為をスパイ罪で罰することができない。スパイ行為をスパイ罪で罰することができない稀有な国が日本なのだ。
初代内閣安全保障室長をつとめた佐々淳行氏は、警視庁公安部や警備部などで北朝鮮、ソ連、中国の対日スパイ工作の摘発にあたっていたが、月刊誌『諸君』(2002年12月号、文藝春秋)で次のように述べている。
〈我々は精一杯、北朝鮮をはじめとする共産圏スパイと闘い、摘発などを日夜やってきたのです。でも、いくら北朝鮮を始めとするスパイを逮捕・起訴しても、せいぜい懲役一年、しかも執行猶予がついて、裁判終了後には堂々と大手をふって出国していくのが実体でした。なぜ、刑罰がそんなに軽いのか――。どこの国でも制定されているスパイ防止法がこの国には与えられていなかったからです。〉
日本以外の国では死刑や無期懲役に処せられるほどの重大犯罪であるスパイ活動を、日本では出入国管理法、外国為替管理法、旅券法、外国人登録法などの違反、窃盗罪、建造物(住居)侵入などの刑の軽い特別法や一般刑法でしか取り締まれず、事実上、野放し状態なのだ。
スパイ防止法がないために日本の軍事情報、最先端技術などが大量に盗まれているのではないかと私は危惧している。そして、スパイの国籍は中国、北朝鮮、ロシアが主体であろうが、民主主義国家のスパイも当然いると思う。
国家の安全保障において、国家機密や防衛機密を守り、他国の諜報活動を予防し、対処することは自衛権の行使として当然の行為である。世界のどの国にもスパイ行為を厳しく取り締まる法(スパイ防止法や国家機密法など)が存在する。それがスパイ対策の基本だ。
■日本の諜報機関の充実を
世界各国では、国外でも諜報活動を実施する米国のCIA(米中央情報局)、中国のMSS(国家安全部:とくに海外の最先端技術情報の窃取が目的)、英国のSIS(英情報局秘密情報部、いわゆるMI6)、ロシアのFSB(ロシア連邦保安庁、ソ連時代に有名であったKGBの後継組織、ウラジーミル・プーチン大統領は第四代FSB長官)、ドイツのBND(ドイツ連邦情報局)、イスラエルのモサド(イスラエル諜報特務庁)などの有名な対外諜報機関が存在するが、日本には国外で諜報活動を実施する機関は存在しない。
日本の諜報機関は国内で活動し、公安警察、公安調査庁、内閣情報調査室(CIRO=サイロ)、防衛省の情報本部(DIH)などが存在するが、いずれも小規模(DIHを除く)で、国外での諜報活動、とくに特殊工作(暗殺や破壊工作など)はおこなっていない。
日本国内でスパイを取り締まる法律もなく、諜報機関も小規模であるために、日本はスパイ天国になってしまい、中国の統一戦線工作などを許しているのだ。