SNSは影響工作の主戦場という現実
中国やロシアにとって情報戦、とくに影響工作は、民主主義国家の選挙などに介入し、国内を混乱に陥れる有力な手段になっている。とりわけSNSは、影響工作の主戦場になっており、我々個人にも大きな影響を与える情報空間やサイバー空間になっている。
SNS時代においては、ソーシャルメディアが世論の形成にますます大きな影響を与える存在になることを認識しなければいけない。私はSNSを多用しているが、SNSは影響工作の主戦場になっているという実感がある。
最近、多くの人たちや組織がユーチューブで情報発信をおこなっていて、有名なユーチューバーは驚くような高収入を得ている。私もいくつかのユーチューブ番組に出演したが、その経験はSNSを利用した情報戦、とくに影響工作を理解するのに大いに役立った。以下、影響工作について私の経験も交えて紹介したいと思う。
■我々はフェイクの時代を生きている
▶SNSを使った影響工作
新型コロナ発生初期の2020年3月、「トイレットペーパーが品薄になります。品薄になる前に事前に購入したほうがよいでしょう」という一本の噓のツイートが原因で、トイレットペーパーが品切れになる事態が発生した。
そのほかにも、「キムチ、ヨーグルト、納豆がコロナに効く」というデマにより、それらの商品が品切れになった。以上のようなツイートが虚偽であると忠告されても、「何が真実で何が噓であるかわからないから買ってしまった」という人が多かったという。
インターネットとSNSの普及により、真実や事実のみならず、偽情報や誤情報も流布され、私たちがそれらに踊らされる事例が数多く発生するようになった。
偽情報は、まるで正しい情報であるかのように世界中に拡散されていく。偽情報に基づく極端な意見に人気が集中し、主義主張の異なる者を罵り合う醜い世界が生まれてしまった。偽情報の氾濫は、人々の分断を深め、真実が無視され、我々の社会を混沌とさせ、民主主義の破壊を招く可能性がある。
とくに、2020年初に発生した新型コロナウイルスの感染拡大は、現実(リアル)とサイバー空間の乖離をさらに加速させるきっかけとなった。新型コロナウイルスに関する偽情報の流布には、個人のみならず特定の団体、さらには国家が意図的に関与する場合もあるから厄介である。
以上のような偽情報や誤情報を使った戦いは情報戦の一部で、「影響工作」や「偽情報キャンペーン」と呼ばれている。
軍事において、情報戦は数ある戦いのなかでも基本の戦いである。情報の85%はサイバー空間を利用して伝達・蓄積・分析・使用される。情報戦のなかで最近のもっともホットな分野は、サイバー空間、とくにSNSを使った影響工作だ。影響工作では、偽情報や誤情報などを大規模に拡散させることにより、影響を与えたいターゲットの脳などの認知領域に影響を及ぼし、その人の言動を思い通りにコントロールする。
中国やロシアが一番重視しているのが情報戦、とくに影響工作だ。そこで、本章においては、中国やロシアが関与した影響工作を中心として紹介するが、その影響工作は知らず知らずのうちに我々にも影響を与えていることを知ってもらいたい。