日本にとっての最大の脅威は中国
■新たな「国家安全保障戦略」への提言
新たな国家安全保障戦略(以下、安保戦略)への提言をおこないたい。
現下、〈岸田政権は安保戦略の改定時期を2022年末とする方向だ。〉〈中国を念頭に経済安全保障の推進を明記する。〉〈敵基地攻撃能力保有の是非が検討の焦点になる。〉などという報道がなされている。
現行の安保戦略は、第二次安倍政権下の2013年12月に策定されたもので、戦後の日本において最初の安保戦略としての価値は認めたい。しかし、その内容には問題がある。安保戦略の改定時期は「おおむね10年」であり、その内容を時代の趨勢に合わせて改定する絶好の時期だと思う。
私はかねてから現行の安保戦略の不備を指摘してきたが、それが是正されるのであれば喜ばしいことだ。報道にあるような「経済安全保障の推進明記」は当然だと思うが、本連載で主張しているように「経済安全保障の推進」は全領域戦の一部にすぎない。
一方、「敵基地攻撃能力保有の是非が検討の焦点になる」などという報道はピントがずれている。「敵基地攻撃能力保有」は国際的には常識である。安保戦略の項目にこれを入れるのは不適切で、入れると世界の笑いものになるであろう。
私にとっての本連載の大きな目的は、改定される安保戦略に対して提言することにある。そこで以下の2点を提案したい。
第一に、明確な脅威認識を示すべきである。
安保戦略にとって脅威認識は核心である。現行の安保戦略における脅威認識では、〈北朝鮮による米国本土を射程に含む弾道ミサイルの開発や、核兵器の小型化及び弾道ミサイルへの搭載の試みは、我が国を含む地域の安全保障に対する脅威を質的に深刻化させるものである。〉と北朝鮮の脅威については明記しているが、中国に関する脅威の記述はない。
中国の脅威は、北朝鮮の脅威など比較にならないほど大きい。
中国は、外交的手段により諸問題を解決することもあるが、統一戦線工作を使って解決しようとすることもあれば、軍事力を使って解決するときもある。中国は武力を背景とした外交を展開しており、それはいざとなればいつでも武力を使うという外交なのである。
尖閣諸島についても同じことが言える。尖閣諸島の領有権をつねに主張し、海警局の艦艇を尖閣諸島周辺で活動させ、領有権の主張を単なる言葉で終わらせることなく、実力行使をしている。主張をし続け、実力行使を続けることにより、その主張を現実のものとしようとしている。