(※写真はイメージです/PIXTA)

高齢期の暮らしは、住まいや収入に加え、家族や周囲との関係性によって大きく左右されます。年金収入のなかで家計を維持しながら、子どもとの距離感にも向き合わなければならない場面は少なくありません。内閣府『令和7年版高齢社会白書』では、65歳以上の人がいる世帯のうち、夫婦のみの世帯と単独世帯がそれぞれ約3割を占めています。支え合える相手が限られるなか、家族との関係が途切れることは、生活の不安にも直結します。

「しばらく距離を置きたい」息子から届いた短いメッセージ

公営住宅で暮らす良一さん(仮名・74歳)と妻の節子さん(仮名・72歳)は、数年前に民間賃貸から現在の団地へ移りました。築40年ほどの建物で、設備は古く、冬は窓際から冷気が入り込みます。それでも家賃は抑えられ、年金生活の夫婦にとっては現実的な住まいでした。

 

「前の家賃を払い続けるのは厳しかったんです。ここなら何とかやっていけると思いました」

 

夫婦の年金は合わせて月22万円ほど。贅沢はできませんが、食費を抑え、光熱費を気にしながら暮らせば、なんとか生活は成り立っていました。総務省『家計調査(2025年)』によると、65歳以上の夫婦のみの無職世帯の可処分所得は月22万1,544円、消費支出は月26万4,148円。年金生活の家計が赤字になりやすい構造は、良一さん夫婦にとっても他人事ではありませんでした。

 

そんな夫婦の心の支えだったのが、ひとり息子の大輔さん(仮名・43歳)でした。大輔さんは都内で働き、妻と子どもと暮らしています。以前は月に一度ほど電話をくれ、年末年始には孫を連れて顔を出してくれることもありました。

 

ただ、ここ数年は関係が少しずつぎくしゃくしていたといいます。

 

「私たちも、頼りすぎていたのかもしれません。家電が壊れた、病院に行きたい、役所の書類が分からない。何かあるたびに息子に電話していました」

 

良一さんは「息子だから」と思っていた部分があったと振り返ります。節子さんも、最初は「忙しいのに悪いね」と言っていたものの、困ったときに真っ先に連絡する相手はいつも大輔さんでした。

 

決定的だったのは、給湯器の不調でした。冬の夜、風呂のお湯が出なくなり、節子さんが不安になって大輔さんに何度も電話をかけたのです。折り返しがあったのは翌朝でした。

 

その日の昼、大輔さんから短いメッセージが届きました。

 

「しばらく連絡しないでほしい。こっちの生活も限界です」

 

節子さんは画面を見たまま、しばらく動けなかったといいます。

 

「怒らせた、というより、見放されたような気持ちでした」

 

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