「しばらく距離を置きたい」息子から届いた短いメッセージ
公営住宅で暮らす良一さん(仮名・74歳)と妻の節子さん(仮名・72歳)は、数年前に民間賃貸から現在の団地へ移りました。築40年ほどの建物で、設備は古く、冬は窓際から冷気が入り込みます。それでも家賃は抑えられ、年金生活の夫婦にとっては現実的な住まいでした。
「前の家賃を払い続けるのは厳しかったんです。ここなら何とかやっていけると思いました」
夫婦の年金は合わせて月22万円ほど。贅沢はできませんが、食費を抑え、光熱費を気にしながら暮らせば、なんとか生活は成り立っていました。総務省『家計調査(2025年)』によると、65歳以上の夫婦のみの無職世帯の可処分所得は月22万1,544円、消費支出は月26万4,148円。年金生活の家計が赤字になりやすい構造は、良一さん夫婦にとっても他人事ではありませんでした。
そんな夫婦の心の支えだったのが、ひとり息子の大輔さん(仮名・43歳)でした。大輔さんは都内で働き、妻と子どもと暮らしています。以前は月に一度ほど電話をくれ、年末年始には孫を連れて顔を出してくれることもありました。
ただ、ここ数年は関係が少しずつぎくしゃくしていたといいます。
「私たちも、頼りすぎていたのかもしれません。家電が壊れた、病院に行きたい、役所の書類が分からない。何かあるたびに息子に電話していました」
良一さんは「息子だから」と思っていた部分があったと振り返ります。節子さんも、最初は「忙しいのに悪いね」と言っていたものの、困ったときに真っ先に連絡する相手はいつも大輔さんでした。
決定的だったのは、給湯器の不調でした。冬の夜、風呂のお湯が出なくなり、節子さんが不安になって大輔さんに何度も電話をかけたのです。折り返しがあったのは翌朝でした。
その日の昼、大輔さんから短いメッセージが届きました。
「しばらく連絡しないでほしい。こっちの生活も限界です」
節子さんは画面を見たまま、しばらく動けなかったといいます。
「怒らせた、というより、見放されたような気持ちでした」
