(※写真はイメージです/PIXTA)

かつて日本人にはハングリー精神があり、経済分野において米国に追いつき追い越せという勢いがありました。しかし、その目覚ましい経済発展のピークは1990年前後までです。元・陸上自衛隊東部方面総監の渡部悦和氏が著書『日本はすでに戦時下にある すべての領域が戦場になる「全領域戦」のリアル』(ワニプラス)で解説します。

オーストラリアと台湾を参考すべき

■全領域戦(All-Domain Warfare)の視点が重要

 

最近、我が国において中国の統一戦線工作に関連した書籍が出版されるようになったことは喜ばしい。それらを読むことによって日本への工作の一部(政界・財界・学界・メディアなどへの浸透や、日本の不動産の購入など)を理解することができると思う。

 

しかし、それらの書籍は、サイバー戦、宇宙戦、電磁波戦、認知戦や影響工作などの様々な戦いを網羅しておらず、外国勢力が日本に仕掛けている戦いの全体像がみえない欠点があった。 

 

私は、外国勢力が日本に仕掛けている戦いを小さな視点ではなく、軍事・非軍事を問わない全領域戦という広い視点、体系的な視点でとらえることが不可欠だと思っている。

 

全領域戦を仕掛けられている日本は危機的な状況にある。中国の全領域戦に対処できていないのだ。

 

■日本はオーストラリアと台湾を参考にすべきだ

 

中国の日本への工作にいかに対処するかを考える際に非常に参考になる国がオーストラリアと台湾だ。両国は中国から激しい工作を受けているが、その工作に耐えている典型的な国家である。

 

まず、オーストラリアは、かつては親中国であったが、現在は中国に堂々と対峙していて、日本が見習うべき国だ。その大きなきっかけとなったのは、本連載でも紹介したクライブ・ハミルトンの『Silent Invasion』(邦訳『目に見えぬ侵略』山岡鉄秀監訳 飛鳥新社刊)の発刊であろう。

 

私は、2018年8月に上梓した『日本の有事』(ワニブックス【PLUS】新書)で、『SilentInvasion』を要約して紹介したが、当時の日本ではあまり知られていなかった。現在は邦訳版が出ているので是非読んでいただきたい。

 

『Silent Invasion』にはオーストラリアに対する、じつに驚くべき中国の工作の数々が紹介されている。この『Silent Invasion』を読んだ多くのオーストラリア人がその内容に驚き、議会を中心にして中国の工作を阻止しようとする動きが活発化したのだ。

 

そして、その動きは新型コロナの発生を契機として本格化している。とくに現首相であるスコット・モリソンが「新型コロナの発生源について徹底的に調査すべきだ」と主張したことに反発した中国は、オーストラリア産石炭の輸入停止措置、大麦やワインへの制裁関税を相次いで発動した。そのためにオーストラリアは甚大な経済的被害を受けた。モリソン首相は、「いかなる国も経済的な威圧の対象になってはならない」と主張し、厳しく中国を非難している。

 

また、解放軍の脅威に対抗して、米英とAUKUS(米、英、豪の軍事同盟で、2021年9月15日に発足)を結成するとともに、米国から原子力潜水艦を導入することを決定するなど、安全保障面での努力をしている。また、中国で開かれる冬季オリンピックに対しても外交的ボイコットを決断している。以上のようなモリソン首相の決断を日本も大いに参考にすべきだろう。

 

次ページ台湾の隅々にまで中国の影響力は及ぶ

本連載は渡部悦和氏の著書『日本はすでに戦時下にある すべての領域が戦場になる「全領域戦」のリアル』(ワニプラス)より一部を抜粋し、再編集したものです。

日本はすでに戦時下にある

日本はすでに戦時下にある

渡部 悦和

ワニブックス

中国、ロシア、北朝鮮といった民主主義陣営の国家と対立する独愛的な国家に囲まれる日本の安全保障をめぐる状況は、かつてないほどに厳しいものになっている。 そして、日本人が平和だと思っている今この時点でも、この国では…

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