(※写真はイメージです/PIXTA)

劣等感を持っていても、何か一つでも「勝てる」ことが見つかれば、子どもは自信を持って人生を生きていくことができます。現役で東大合格をした弟はどうやって劣等感を克服し、「勝つこと」を学んだのでしょうか。精神科医の和田秀樹氏の著書『アドラー流「自分から勉強する子」の親の言葉』(大和書房)で解説します。

子どもの過去ではなく、未来を見る

■原因論ではなく目的論で考える

 

子どもにとって劣等感を持つことは決してマイナスではありません。劣等感を持っても、何か一つでも「勝てる」ことが見つかれば、子どもは自信を持って人生を生きていくことができます。

 

ここで重要なのは、勝ちたいと思う(優越性を追求する)からこそ劣等感が生じるということです。劣等感を持って、その劣等感を解消するために努力するわけではないのです。

 

もともとアドラーは、「劣等感があるからこそ、人は頑張る」という考えを持っていました。これは、人がとる行動をなんらかの原因と結びつけようとする「原因論」と呼ばれる考え方です。

 

アドラーは後に、原因論の考え方を修正し、目的論で考えるようになりました。要するに、人が行動するのは、何かの目標や目的があるからだ、とする考え方です。

 

たとえば、背が低いというコンプレックスを持っている人全員が、勉強を頑張るわけではありません。勉強をして東大に入りたい、目指す職業に就きたいという目標があるからこそ、勉強を頑張るわけです。

 

アドラーは次のように語っています。

 

「もし、この世で何かを作るときに必要な、建材、権限、設備、そして人手があったと
しても、目的、すなわち心に目標がないならば、それらに価値はないと思っています」

 

■「未来志向」で子どもを育てよう

 

アドラーは、教育に強い関心を持ち、自ら児童相談所を設立し、問題を抱えた親子のカウンセリングに尽力しました。

 

万引きをしたり、暴力をふるったりする子どもがいたとき、一般的には問題行動を起こすなんらかの原因があったと考えます。

 

たとえば、家が貧しかったから万引きに走るようになった、父親から日常的に暴力をふるわれたので、暴力で物事を解決しようとするようになった……という具合です。

 

もちろん、育ってきた環境が子どもの心に影響を与えること自体は否定できません。しかし、同じような経験をした人が全員同じように問題行動を起こすとは限りません。それに、すでに起きてしまったことをさかのぼって変えようとするのは不可能です。

 

それならば、未来に向けて行動を変えていったほうがよい、というのがアドラーの基本的な考え方なのです。

 

目的論で考えてみると、子どもの行動に対する見方が変わります。たとえば、子どもが不登校を繰り返すとき、原因論で考えると「親の愛情が足りなかった」などとなりますが、目的論で考えると「親や先生の注意を引きたかった」という目的が見つかるかもしれません。

 

その場合は、あえて子どもの行動を無視するのが有効です。不登校をしても注目されなければ、子どもはいい行いをすることで親や先生の注目を引こうとするかもしれないのです。

 

子どもが勉強をしないとき、「才能がないからだ」と考えるのが原因論的な考え方です。これに対して、「勉強ができないのは目標を間違えているからだ」「才能をうまく使えていないからだ」と考えるのが目的論的な考え方です。

 

いずれにしても、重要なのは「子どもの過去を見ることではなく、未来を見ること」です。

 

もし子どもの成長について悩んでいることがあったとしても、未来に目を向けて何ができるかを考えてほしいと思うのです。

 

和田 秀樹
和田秀樹こころと体のクリニック 院長

 

 

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