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劣等感は人間を成長させる起爆剤になる
■劣等感を持つことは悪いことではない
アドラー心理学では「劣等感」という言葉が重要なものとして扱われています。
そもそも人によって特徴や能力はさまざまですから、他人よりも背が低い、足が遅い、体が弱いということはいくらでもあり得ます。
人と比較したときに劣っているものがあることを「劣等性」といいます。劣等性は、単に劣っているという判断ですが、この判断について「恥ずかしい」という感情が伴うと、それは「劣等感」と呼ぶべきものになります。
アドラーによれば、人間は誰もが他人と対等だと感じたいという欲望を抱えています。ですから、他人よりも背が低かったり、足が遅かったりすると、欲望が満たされず、「自分はダメだ、自分には価値がない」と感じてしまうと考えました。
このように、劣等感を過剰に持つようになり、自分には価値がないと考える状態を「劣等コンプレックス」といいます。アドラーによれば、劣等コンプレックスが表れると、人は神経症になりやすくなります。
ここまで聞く限り、劣等感を持つのはよくないことだと思われるかもしれません。では、子どもにも劣等感を持たせないようにするのが最善の子育てということでしょうか。
実は違います。劣等感は、人間を成長させる重要な起爆剤となり得るからです。
劣等感を持って、自己否定するようになったら、それ以上人は成長することができません。しかし、劣等感を持っても、それを力に変えて成長できる人もいます。
■「勝てた」という経験をさせよう
アドラーが劣等感に強く着目するようになったのは、自身の体験が大きく影響していると言われています。
アドラーは、子どものころから体が弱く、くる病を患っていたのです。くる病は、ビタミンDの不足などが原因となる発育不良であり、足の骨などが曲がったりする病気です。病気で自由に外を走り回れなかったアドラーは、健康な兄に対して強い劣等感を持っていました。
しかし彼は、登山などの経験を通じて、劣等感を克服することに成功しました。劣等感を持ったとしても「それははね返すことができる」と考えるようになったのです。
劣等感をはね返すうえで重要なポイントとなるのは、「劣等感を持っている分野とは別の分野で勝つ経験をする」ということです。
たとえば、背が低いことに劣等感を持っている人は、背の高さで他人に勝つ経験はほとんど得ることができません。それならば、背の高さ以外のところで他人と勝負して勝つほうが劣等感を克服できる可能性が高まります。
背が低くても、会話のスキルに長けていれば背が高い人よりも異性から好かれるでしょうし、仕事に精進して出世すればたくさんの人に認めてもらえるでしょう。
要するに、世の中で勝っていけるような能力を身につけることで、劣等感をはねのけることができるだけでなく、自信を持って生きていけるということです。
これを子育てに当てはめるならば、子どもの劣等感を否定するのではなく、優越性の追求をサポートしてあげるのが親の役割ということになります。
具体的にいえば、「足が遅くても、勉強で勝てる」「背が低くても、勉強で勝てる」と思わせるようにするのです。
このときポイントとなるのが、ただ漠然と「勝てそう」と思うのではなく、どんなことでもいいので「勝てた」という実体験を持たせていくことです。