(※写真はイメージです/PIXTA)

劣等感を持っていても、何か一つでも「勝てる」ことが見つかれば、子どもは自信を持って人生を生きていくことができます。現役で東大合格をした弟はどうやって劣等感を克服し、「勝つこと」を学んだのでしょうか。精神科医の和田秀樹氏の著書『アドラー流「自分から勉強する子」の親の言葉』(大和書房)で解説します。

そろばんがダメでも「才能がない」とは考えない

■「勇気づけ」をしていた私の母親

 

「勝てた」という経験を持たせることは、子どもを勇気づけることにつながります。これに関して、私の弟のエピソードをご紹介したいと思います。

 

弟は常に「勉強ができる兄」である私の後塵を拝していました。自慢になるようで気恥ずかしいのですが、確かに私はスポーツ以外、何をやらせても達者な子どもでした。

 

小学校3年生のころ、私は、親のすすめでそろばん塾に通うようになり、1年間で3級まで取得して周囲の大人たちを驚かせていました。

 

それを見た母親は、「兄ができるのだから弟もできる」と信じて疑わず、弟を兄の私と同じそろばん塾に通わせました。

 

ここで弟は、一つの大きな問題に直面します。もともと計算が得意でなかったうえに、弟は左利きでした。そろばんは、右から左に玉をはじいていく作業なので、左利きはそろばんの玉に手が当たりやすく、根本的に不利なのです。

 

案の定、そろばんはたった1週間で挫折してしまいました。他の親なら、あるいはこのように愚痴をこぼしたかもしれません。

 

「1週間で挫折するなんて、情けない」
「せっかくお金を出して塾に行かせたのにもったいない」
「せめて1か月くらいは我慢して通わせようか」

 

しかし、母親はまったく違いました。

 

彼女は1週間でそろばんに挫折した弟を見ても、「才能がない」などとは一切考えませんでした。

 

「不利なそろばんを選択したのが間違いだった」
「計算ができるようになるなら、そろばんでなくても他の手段を使えばいい」

 

と考え、あっさりとそろばん塾をやめさせたかと思うと、公文式の塾に入塾させたのです。

 

■弟の勉強コンプレックスを見事解消!

 

公文式では、学年別ではなく、そのときの実力に応じたプリントを学習します。おそらく弟も、最初はごく簡単な計算プリントから取り組み、「できる」という実感を得ながら徐々にレベルを上げていったのだと思います。

 

「できる」といっても、同時期に4桁×4桁の暗算をラクラクとこなしていた兄の私に比べたら、低レベルの成功体験だったといえます。しかし、大切なのはレベルの高低ではなく、あくまでも「勝てた」という実感を得ることです。

 

それまで父や兄である私から「バカだ」と言われ続けていた弟が、公文式のプリントで初めて、自分の学年より上の課題をこなし、「自分は勉強ができる」という自信を持つことができた。これは非常に大きな転機になったはずです。

 

 公文式で、まわりの子よりもちょっとできたという経験を繰り返すうちに、少しずつ弟の勉強コンプレックスは解消されていきました。そして、とても合格できるような成績ではありませんでしたが、灘中受験までこぎつけたのです。

 

それが、「はじめに」でもお話ししたように、「自分も勉強のやり方さえマスターすれば東大に行けるかもしれない」という根拠のない自信へとつながっていきました。

 

今にして思えば、母親は弟に対してアドラー流の勇気づけをしていたのだと思います。勇気づけとは、劣等感をはね返すための土俵を用意してあげることです。弟の場合は、そろばんという土俵を捨てて、公文式という土俵を用意してもらうことで勝つことができました。

 

仮に公文式に挫折したとしても、母親はなんらかの手段で別の教材を探し出して、弟に確実に勝つ体験をさせたはずです。

 

そういった、子どもに対する無条件の愛情と、揺るぎない確信に基づいて行うのが本当の勇気づけといえるのです。

 

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