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「旗艦店」ありきの発想は終わらせる理由
■さようなら旗艦店
少々刺激的な見出しを掲げてしまったが、もちろん理由がある。「顧客の体験」というコンセプトを語るときに「旗艦店」ありきの発想はもう終わりにしたいのだ。
これにはいくつか理由がある。第1に、私の経験上、旗艦店は、社内的に、やりたい放題の手に負えない子供のような存在になりがちなのだ。店舗全体の運営を担うチームにしてみれば、こうした旗艦店は、往々にしてマーケティング上、不必要な存在である。軽薄でカネ食い虫で見掛け倒しと見られていることも少なくない。業務の面からは「実店舗」とは言い難い存在なのである。
逆に、マーケティング関係者は、旗艦店を店舗運営の領域と見ていて、体験を構成する美的な部分や贅沢な部分に息を吹き込むのが旗艦店だと考えている。旗艦店が力を発揮できず、期待に応えられなければ、たびたび責任のなすり合いに発展する。全員に責任があるからこそ、誰も責任を負わないのだ。
第2の問題は、旗艦店には独自性があるにもかかわらず、通常の店舗の財務実績を測る際に使う従来の基準で旗艦店も測られることが多い点だ。むろん、一般に旗艦店の売上高販管費率は、従来型店舗よりはるかに高いことも問題である。
何よりも、純粋に実益の面から言えば、なぜブランド各社は、旗艦店をつくるという、通常店舗がかすんで見えるようなことをあえてするのだろうか。顧客の体験は、特定の店舗や地域でしか手に入らないようなノベルティグッズではいけない。旗艦店に限らず、顧客との接点になるありとあらゆる場に広く行き渡るべきである。突き詰めれば、すべての店舗がいわば旗艦店でなければならないはずだ。
■すべての店舗をコンセプトストアに
だからこそ、私は、ブランド各社には旗艦店ではなく「コンセプトストア」という発想を持ってもらいたいと常々思っている。コンセプトとは、繰り返しの取り組みや創意工夫、継続的な開発を示唆する言葉だ。コンセプトストアは、本格展開も視野に入れた価値あるイノベーションを生み出す傾向があり、当然、全店舗へと展開できる可能性も高い。
また、コンセプト自体は、マーケティング部門と営業部門の双方が共同で所有・運営することも可能だ。旗艦店なら「これが私たちに精一杯できること」と言いそうなところが、コンセプトストアなら「私たちはイノベーションへの取り組みをやめない」となる。
旗艦店は、大がかりな体験ほどいいと考える。だが、実生活でよくあるように、ちょっとした体験に大きな満足感を覚えることは少なくない。
オートキュイジーヌ(高級フランス料理)がいい例だ。腕利きシェフが創り出す素晴らしい料理は、量的にはほんのちょっとだけだ。「料理の盛りが小さいのは、食材を減らして儲けを増やすため」と冷ややかな見方をする人もいるが、実は小盛りのほうが生理学的に理にかなっているのだ。
まず、量が少ないほうが見た目が美しくなる。小盛りは食器の上で見栄えがよく、芸術的な盛り付けができるため、見た目で食欲がそそられる。だが、もっと重要なポイントは、科学的に、いかなる食べ物も最初の3~4口は舌の味蕾の反応が飛び抜けていいと言われる。その後は、あまり代わり映えがしなくなる。また、少ない量に抑えれば、1回の食事で多くの種類の料理を味わうことができる。
こんなふうに、大がかりな体験だからと言って、いい体験になるわけではないのである。確かに、私自身、ショッピングの場で、とことん洗練されていて、おもしろく、記憶に残るような体験を思い出してみると、極めて小さな小売りスペースが舞台になったものもいくつかある。
ダグ・スティーブンス
小売コンサルタント
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