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ショッピングモールの優位性が消えた?
■ショッピングモールが凋落した3つの要因
ショッピングモール、とりわけ欧米のモールは、どうしてこんな悲惨な状況になってしまったのか。アメリカには1000以上のショッピングモールがあるが、その50%ほどが、死んだも同然のJCペニーやシアーズといった昔ながらの百貨店を中核テナントにしている。
さらに、60%以上がヴィクトリアズシークレットのような中堅ブランドを客寄せに使っているが、こうしたブランドは、パンデミックで特に壊滅的な影響を受け、来店客が集まらず、かなり厳しい状況にある。もっとも、ショッピングモールの凋落は、アメリカに限った話ではない。
2018年後半、BBCは「イギリス国内にある200以上のショッピングモールが危機的状況にある」と報道した。報道によれば、業績不振のショッピングモールの多くは、アメリカの未公開株式投資会社が所有している。カナダなどほかの地域でも、キャディラックフェアビューなど有力ショッピングモール運営会社は、営業時間を最大30%も短縮するなど、惨事を食い止めようと躍起になっている。
だが、これほど多くのショッピングモールがバタバタと倒れている理由を求めて、あれこれデータを分析しても、真実は浮かび上がってこない。そもそも数字や統計は、ほとんどの人々が知っていることを列挙しているに過ぎない。ショッピングモールは、私たちが知っているように、工業化時代のビジネスモデルであり、それに対するニーズがない世の中になれば、朽ち果てていくしかない。現代のショッピングモール業界は、そもそも揺籃期から、次の3つの基本条件を土台に発展してきたからだ。
①アクセス性
私は1970年代後期から1980年代初めにかけて中高生時代を過ごしたのだが、当時、ショッピングモールは、言ってみればアナログ版のインターネットのような存在だった。フェイスブックのように、友達や家族が集う場だった。出会い系サービスのティンダーのような側面もあった。
ここで知り合い、交際に発展し、あるいは別れを迎えたカップルも少なくなかった。ネットフリックス的な役割もあった。地元の映画館が入っていて、町で唯一の映画館ということも多かった。フードコートで各自が好みのメニューを選べるという意味では、ウーバーイーツ的な面もあった。
ショッピングモールは、チケット販売も担っていた。今は、世界最大のチケット販売会社「チケットマスター」(Ticketmaster)のようなサービスがネットにあるが、当時、ライブイベントのチケットが買えたのは地元で唯一ショッピングモールだけということも珍しくなかった。しかも、何時間も並ぶ覚悟も必要だった。そして、ショッピングモールはアマゾンでもあった。当時としてはクラクラするほど多種多様なジャンル、ブランド、商品が並ぶなかで、ほとんどのショッピングを済ませることができたのだ。
今でこそ、ショッピングモールといえばアパレルブランドだらけだが、当時の地方のショッピングモールでは、サンダルでも、スノータイヤでも、芝刈り機でも、口紅でも、あらゆるものが揃っていた。体調が悪ければ、買い物がてらクリニックに立ち寄ることもできた。
地元のショッピングモールは、中産階級の人々の生活の中心であり、商業活動の基盤であり、中流家庭の子供たちや家族の遊び場でもあった。ショッピングモールは、ブランド、商品、交友関係、娯楽などにアクセスする場であり、場合によっては唯一のアクセス手段だった。
ところが、ポストデジタル時代には、ショッピングモールは、こうした機能を担えなくなってしまった。かつて私たちは、電卓や目覚ましなど用途に応じて40種類くらいの電子機器を使い分けて暮らしていたが、スマートフォンの登場ですべてが淘汰された。同じように、かつてショッピングモールが担っていた役割が、ほぼすべてインターネットに取って代わられてしまった。
実際、世界最大のショッピングモールが、手のひらに難なく収まってしまうのである。しかも製品・サービスの品揃えで比べたら、普通のショッピングモールは、庭先のガレージセールかと思うほど見劣りする。
さらに、小売業界が衣料・靴などのバーチャル試着などの便利な技術を投入し、オンラインでますます安心して衣料品が買えるようになれば、ショッピングモールにとっては致命的なテナント流出という悪夢に襲われることになる。