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ショッピングモール復活のカギとは
■コミュニティとしての役割を担えるか
アメリカの建築家のビクター・グルーエンは、近代的なショッピングモールの生みの親とされるのだが、今日、私たちの街で見かけるようなものを生み出そうとしたことはない。実際、1978年に亡くなる前に、次のように語っている。
「よくショッピングモールの父と呼ばれるが、(中略)この場を借りて言うと、その父という称号は金輪際、勘弁していただきたい。血を分けた覚えもないようなまがいものの開発施設に息子ヅラをされるのは、まっぴらごめんだ。ああいうのがわれわれの街を破壊したんだ」
確かに、伝えられるように、グルーエンの当初の狙いは、古代ローマの市場や古代ギリシャのアゴラのように、人々が集い、地域生活に参加できる場を建設することにあった。
ヨーロッパの街を歩いてみればわかるが、必ず広場など人々が集う場にたどり着く。こういう場こそ、グルーエンが本来描いていた姿なのである。現に、多くの都市はそういう中心地にたどり着くように設計されていて、それが数千年の長きにわたって続いている。
人間というものは、帰属意識を大切にする社会的な動物なのである。ヨガウェアの好みは変わっても、地域社会や共同体を必要とする気持ちはいつまでも色褪せない。そう考えると、ショッピングモールは、最初に地域社会の集いの場をめざす前提で設計する必要がある。そういう基軸なくして、他の要素がうまく収まるだろうか。
他にもヨーロッパの広場や市場を見ていて素晴らしいと感じるのは、人々の暮らしや仕事、食、休息、息抜きの中心になっていることだ。地域社会や共同体の然しかるべき機能を果たす中心になっている。取ってつけたような施設とは一線を画する人間味あふれる活動や、そこからほとばしるエネルギーが人々を引き込むのである。
ショッピングモールが郊外にあるか都市部にあるかを問わず、何よりも大切な土地柄を生み出すうえで、正真正銘の複合用途コミュニティとそこに暮らす人々から自然にあふれ出るエネルギーが欠かせない。
■メディアネットワークとしての役割
当然のことながら実店舗での販売数量は減少し、オンラインへと流れる売り上げの割合が大きくなっている。すると、ますます多くの小売業者が店を閉めるか、実店舗の軸足を流通チャネルからメディアチャネルへと移すかの二者択一を迫られることになる。ショッピングモール運営会社は、融通のきかない考え方を脱却して、一種のメディアネットワークとしての役割を担うべきだろう。
ちょうどクオリティの高いコンテンツで定評あるアメリカの有料ケーブルテレビ局、HBOのように、文字どおりのネットワーク的な面を前面に押し出すのだ。オリジナルのドラマや映画でクオリティと独自性を追求するのがHBOの役割だが、それと同様に、ショッピングモールもメディアネットワークとして、独自の催し物や特別イベント、地域の集まりなどを企画し、買い物客という名のオーディエンスを、各テナントの“ショー”に誘導するのだ。
そうなれば、ショッピングモールは、各テナントのブランドインプレッションが高まるように積極的な役割を担い始める。言い換えれば、各テナントがショッピングモールに客を引っ張ってくる役割は担わなくていいのである。各テナントに客を引き込むのは、ショッピングモール運営サイドの仕事なのだ。
その意味では、典型的なショッピングモールのマーケティングチームも、発展的解消を遂げて、テレビ局の制作チームのような存在になるべきだ。ショッピングモールは、いわば365日年中無休のバラエティショーだ。
担当チームは、綿密に計画を立てる能力だけでなく、地元の行事や事情に応じて計画を自在に変更するなど、当意即妙な行動力も求められる。目標は、いわばオーディエンスである客に、仮に何も買う予定がなくても、ショッピングモールへと足を運んでもらうことである。オーディエンスが集まってくれば、ショッピングモールのテナントである店にとって、メディアとしての価値が高まる。