《目次》
そもそも「相続税」とは?
相続税とは、亡くなった人が死亡時に所有していた資産等を、相続や遺贈(以下、相続等)によって取得した人に課税される税金のことです(相続税法第一条の三)。
亡くなった人の財産を取得した人の呼び方は、“どのような経緯で”財産を取得したのかによって異なります。
相続によって財産を取得した人は「法定相続人(ほうていそうぞくにん)」、遺言書による遺贈によって財産を取得した人は「受遺者(じゅいしゃ)」と呼びます。
※本稿では相続による相続税について解説していきます。
誰が法定相続人になるの?
法定相続人とは、民法で「被相続人の財産を取得する権利(相続権)がある」と認められた親族のことで、以下のように順位が定められています。
【第一順位】被相続人の子供(亡くなっている場合は孫)
【第二順位】被相続人の父母(亡くなっている場合は祖父母)
【第三順位】被相続人の兄弟姉妹(亡くなっている場合は甥姪)
例えば、被相続人の家族構成は「配偶者あり・子供なし・父母と祖父母はすでに他界・兄弟姉妹あり」としましょう。
この場合、法定相続人は「被相続人の配偶者」と、第三順位である「被相続人の兄弟姉妹」となります。
【関連記事】法定相続人とは|順位・貰える割合…「兄弟は?」「独身だとどうなる?」わかりやすく解説
「相続等で財産を取得=相続税が課税」ではない
相続等によって亡くなった人の財産を取得した“全員”に、相続税が課税される訳ではありません。
相続税が課税されるのは、相続等によって取得した財産の価額から、債務・未払い金・葬式費用等を差し引いた後の「正味の遺産総額」から、さらに「基礎控除額」を差し引いた後の「課税遺産総額」です。
つまり、「正味の遺産総額」が「基礎控除額」を超えた場合のみ、相続税が課税されます。
平成25年度、改正された「相続税の基礎控除」
先述した通り、相続税の基礎控除とは、相続税の課税対象となる「課税遺産総額」を計算する際に用いる控除のことです。
「基礎控除=相続税が課税されるか否かのボーダーライン」とイメージしていただけると、わかりやすいですね。
相続税の基礎控除は平成25年度の税制改正において40%引き下げられ、相続税は「一握りの富裕層に課税される税金」ではなくなりました。
国税庁「令和2年分 相続税の申告事績の概要」によれば、令和2事務年度における被相続人(死亡者数)の全体の8.8%、おおよそ11.3人に1人が相続税の申告書の提出に係るとされています。
相続税の基礎控除額の計算方法
平成27年1月1日以降に発生した相続等において、相続税の基礎控除額の計算式は「3,000万円+(600万円×法定相続人の数)」となります。
法定相続人の数は「亡くなった人の家族構成」によって異なるため、各ご家庭によって相続税の基礎控除額は以下のように変動します。
- 法定相続人1人…基礎控除額3,600万円
- 法定相続人2人…基礎控除額4,200万円
- 法定相続人3人…基礎控除額4,800万円
- 法定相続人4人…基礎控除額5,400万円
- 法定相続人5人…基礎控除額6,000万円
例えば、夫婦と長男と長女の4人家族において、父親(夫)の相続が発生したとしましょう。
法定相続人は母親(妻)・長男・長女の3人となるため、相続税の基礎控除額は「3,000万円+(600万円×3人)=4,800万円」と算出されます。
このケースにおいて、父親の課税遺産総額が4,800万円以下であれば相続税は課税されず、相続税の申告手続きも不要となります。
しかし、「小規模宅地等の特例」を適用すれば課税遺産総額が基礎控除額を下回る場合や、「配偶者の税額の軽減)」を適用して相続税額が0円になる場合は、相続税の申告が必要となりますのでご注意ください。
【関連記事】改正される?相続税の基礎控除とは|下回れば「相続税0円」となる基礎知識
相続税額はいくら?「税率早見表」
相続税の税率は、相続等によって取得する財産の総額が多くなるほど税率も高くなる、累進課税制度が採用されています。
しかし相続税額の計算方法は、「5,000万円の資産を相続=相続税の税率20%」といった、単純なものではありません。
課税遺産総額を、一旦“法定相続人が法定相続分で取得したもの”と仮定して按分し、そこに以下の税率や控除額を当てはめ、各法定相続人の「“仮”の相続税額」を計算します。
その後、各法定相続人の「“仮”の相続税額」を合算して「法定相続人全体の相続税額」を算出し、そこから財産を取得した人の課税価格に応じた割合に按分して「各人の実際の納税額」を計算し、さらに各人の属性に併せて以下の税額控除を適用させます。
- 贈与財産の税額控除
- 配偶者の税額の軽減
- 未成年者の税額軽減
- 障害者の税額軽減
- 相次相続控除
- 外国税額控除
具体的な相続税の計算シミュレーションは、次章で解説を行います。
「相続税額」と「実効税率」の早見表
相続税額の計算方法では、何度も足したり割ったりを繰り返す上に、何種類もの控除が出てくるので、多くの方が混乱されるかと思います。
結局のところ、みなさんが知りたいのは「遺産総額にあわせた、相続税の税率と課税額」かと思います。
配偶者あり・配偶者なしの場合における、「家族全体に課税される相続税額」と「実効税率(実質的な相続税負担率)」の早見表を作成しましたので、参考にしてください。
なお、配偶者には「配偶者の税額の軽減」を最大限適用させているため、表内に記載されている相続税額は、「子供全員で負担する金額(配偶者は無税)」となります。
▼配偶者ありの場合(一次相続)
▼配偶者なしの場合(二次相続)
相続税の税率表を見ると「税率が高い!」と感じますが、実際に相続税額を計算してみると、実効税率は思っていたよりも低いことが分かります。
流れを掴む!相続税額の計算方法「シミュレーション」
相続税額の計算の流れを掴むためにも、以下のモデルケースを元に、相続税額の計算方法をシミュレーションしてみましょう。
法定相続人:母親(妻)、長男、長女
基礎控除額:3,000万円+(600万円×3人)=4,800万円
正味の遺産総額:9,000万円
- 自宅不動産(土地)3,500万円
- 自宅不動産(建物)2,500万円
- 銀行口座の預金 2,000万円
- 有価証券 1,500万円
- 葬儀費用や未払金 -500万円
①課税遺産総額を計算
正味の遺産総額9,000万円-基礎控除額4,800万円=課税遺産総額4,200万円
②課税遺産総額を一旦「法定相続分」で分割したと仮定
- 母親の仮の相続分…4,200万円×法定相続分1/2=2,100万円
- 長男の仮の相続分…4,200万円×法定相続分1/4=1,050万円
- 長女の仮の相続分…4,200万円×法定相続分1/4=1,050万円
③相続税の税率と控除を適用して“仮”の相続税額を計算
- 母親の仮の相続税額…2,100万円×税率15%-控除50万円=265万円
- 長男の仮の相続税額…1,050万円×税率15%-控除50万円=107.5万円
- 長女の仮の相続税額…1,050万円×税率15%-控除50万円=107.5万円
④“仮”の相続税額を合算して家族全体の相続税額を計算
母親265万円+長男107.5万円+長女107.5万円=480万円
⑤家族全体の相続税額を、実際の分割割合で按分
- 母親の納税額…480万円×1/2=240万円
- 長男の納税額…480万円×1/4=120万円
- 長女の納税額…480万円×1/4=120万円
※実際の分割割合は法定相続割合と仮定
⑥相続人毎に税額控除を適用して実際の納税額を計算
- 母親の実際の納税額…240万円-配偶者の税額の軽減=0円
- 長男の実際の納税額(税額控除なし)…120万円
- 長女の実際の納税額(税額控除なし)…120万円
仮に、長男や長女が未成年であれば「未成年者の税額軽減」が適用され、障害者であれば「障害者の税額軽減」が適用され、相続税額が低くなります。
【関連記事】自分で相続税を計算!実際のシミュレーションを用いてご紹介
「死亡保険金にも非課税枠あり」いくらまで申告不要?
死亡保険金とは、被相続人の死亡によって取得した「生命保険金」や「損害保険金」のことです。
死亡保険金は“亡くなった人が所有していた財産”ではありませんが、死亡が理由として支払われる金銭ですので、「みなし相続財産」として相続税が課税されます(受取人が決まっているため遺産分割の対象にはなりません)。
死亡保険金に相続税が課税されるのは、被相続人が保険料の支払いを負担していた場合(被相続人が契約者であり被保険者)のみで、以下の非課税枠を超えた部分となります。
死亡保険金等の非課税枠
500万円×法定相続人の数=非課税限度額
※受遺者は法定相続人の数に含めません
例えば、被相続人・被保険者である父親(夫)が保険料を負担しており、法定相続人が母親(妻)・長男・長女の3人、死亡保険金2,000万円の受取人が母親(妻)であるとしましょう。
この場合、死亡保険金の非課税限度額は1,500万円(500万円×法定相続人3人)、相続税が課税されるのは500万円(死亡保険金2,000万円-非課税限度額1,500万円)となります。
この500万円を正味の遺産総額の計算式に算入し、相続税額を算出します。
死亡保険金は「所得税」や「贈与税」が課税されるケースも
死亡保険金は「誰が保険料を支払っていたのか」「誰が受取人なのか」で、相続税ではなく、贈与税や所得税が課税されるケースもあります。
被保険者が被相続人で、保険料を支払っていたのが被相続人の妻、受取人も被相続人の妻であれば、被相続人の妻に対して「所得税」が課税されます。
そして被保険者が被相続人で、保険料を支払っていたのが被相続人の妻、受取人は子供であれば、子供に対して「贈与税」が課税されます。
死亡保険金に所得税や贈与税が課税される場合は、当然ながら相続税が課税されるケースにおける非課税枠を適用することはできません。
相続税申告が決まったら…流れと「必要書類」の書き方
相続税が課税される場合、その人が死亡したことを知った日の翌日から10ヵ月以内に、下の全ての手続きを完了させる必要があります。
- 被相続人の戸籍謄本等を取り寄せて法定相続人を確定する
- 被相続人の財産を洗い出して必要書類を収集
- 法定相続人全員で遺産分割協議を行う(遺言書が作成されていない場合)
- 相続税が課税される場合は相続税の申告と納付
被相続人の戸籍謄本は取り寄せるだけで1ヵ月以上かかることもあり、相続財産を把握していない場合は、被相続人の自宅から相続財産を探し出すことから始めなければいけません。
そして遺産分割協議では「誰が・何を・どれだけ相続するのか」を決め、その内容を遺産分割協議書という書類に記載する必要があり、法定相続人の誰か1人でも合意しない場合は、遺産分割協議自体がまとまりません。
「10ヵ月以内」と聞くと、余裕をもって申告手続きができるように感じますが、相続手続きがスムーズに進まないことは珍しくはありません。
相続税の申告書の作成には時間も手間もかかる
相続税が課税される場合は、相続税申告書を作成し、被相続人の最後の住所地を管轄する税務署に、必要書類を添えて提出する義務があります。
①被相続人の出生から死亡まで連続した戸籍謄本
②相続人全員の戸籍謄本
③法定相続情報一覧図の写し(上記①及び②に代えて)
④遺産分割協議書の写しと印鑑証明書
⑤相続財産に係る書類(金融機関の残高証明書や固定資産税評価証明書等)
…この他多数
相続税申告書は第1表~第15表まであり、相続財産の内容や適用させる特例や控除の種類によって申告書の種類が異なり、その書き方も複雑です。
さらに財産評価額や相続税額の計算方法は、プロの税理士でもミスをするほど難易度が高い作業となるため、ご自分で相続税申告をされることはおすすめできません。
相続税が課税される可能性があるケースにおいては、「10ヵ月以内だから大丈夫…」と考えるのではなく、専門家である税理士に相談をしながら、早め早めに相続手続きを進めていくことが大切です。
相続税申告を依頼した場合の「税理士報酬」相場は?
昔は税理士法によって報酬基準が定められていましたが、平成14年3月に税理士報酬規程が廃止されてからは、各税理士事務所が自由に報酬を設定できるようになっています。
相続税申告を税理士に依頼される場合、税理士報酬は「遺産総額の0.5~1.0%」が相場となります(遺産総額が1億円ならば報酬は50~100万円)。
ここに「相続財産の内容」「法定相続人の数」「申告期限までどれだけ期間が残されているのか」によって加算報酬が上乗せされ、書類の代行収集等のオプション料金が発生するのが一般的です。
「報酬の安さ」で税理士を選ぶのは危険!
「税理士報酬が安いから」という安易な理由で、相続税申告を依頼する税理士を選ぶのは危険です。
税理士報酬が安い(相続税申告に慣れていない)税理士に依頼した場合、相続税に係る特例や控除を適用しきれずに納税額が高くなってしまうことがあります。
つまり、いくら税理士報酬が安くても、相続税を合法的に節税できなければ、結果としてコストが高くなる可能性があるということです。
相続税申告を依頼する税理士を選ぶ際は、その税理士が「相続税に強い税理士なのか否か」を見極め、税理士報酬だけではなく「税理士報酬+納税額」の最終コストに注目することが大切です。
「相続放棄」の期限は、基本的に3ヵ月以内
被相続人の相続財産が債務超過の場合、法定相続人等は相続放棄を選択できます。
この「債務超過の場合」とは、被相続人が保有していた資産(不動産や預貯金等)よりも、債務(借金や未払金やローン残額)が多く、相続すると法定相続人等が借金を負ってしまうことを指します。
相続放棄をする場合は、自己のために相続の開始があったことを知った日から3ヵ月以内に、被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所へ、「相続放棄の申述」をしなくてはいけません。
なお、「相続放棄の期限を過ぎてから債務がある事実を知った」等、相当の理由がある場合は、期限を過ぎてからでも相続放棄が認められる場合があります。
具体的には、相続放棄の申述書に加えて上申書(事情を説明する書類)を添付することとなりますが、手続きが複雑になりますので、期限が過ぎてからの相続放棄については、司法書士等の専門家に相談されることをおすすめします。
【関連記事】相続放棄とは?手続きにかかる費用や必要書類、「認められない事例」まで|税理士が解説
税務調査がやってきた…「申告漏れ」が税務署にバレるワケ
期限までに相続税申告をしたものの、税務調査が実施されて申告漏れを指摘されることがありますが…なぜ税務署側に申告漏れがバレてしまうのでしょうか?
税務署側は、「KSK(国税総合管理)システム」に被相続人の生前の所得税の申告内容・不動産などの財産所有情報・CRS情報・国外送金調書といった様々な情報を蓄積しており、予め「相続税が課税される可能性がある人」の目星を付けています。
そして実際に提出された相続税の申告書と、税務署側の独自資料を照らし合わせ、“漏れている財産がないか”を確認し、不明点があれば税務調査を実施して事実確認を行います。
例えば、「被相続人の生前の収入が多い」と予測していたのに、申告書に計上されている相続財産が明らかに少なかった場合、税務署側は名義預金やタンス預金を疑います。
被相続人はもちろん配偶者や子供等の銀行口座の残高はもちろん、過去数年に遡って入出金履歴を調べ、多額の預貯金の入出金が確認されれば、「家族名義預金への振替はないか」「誰がどのような目的で使用したのか」「残金はどこで誰が保管しているのか」を税務調査で追求します。
そして申告漏れが指摘された場合、不備があると確認された場合は「過少申告加算税」、悪意があると判断された場合は「重加算税」という重いペナルティが課せられてしまいます(さらに延滞税も課せられます)。
相続税申告をする際は、申告漏れがないよう細心の注意を払って、申告書を作成することが大切です。
【関連記事】「相続税の税務調査」で課税処分に…「不服申立て(再調査の請求・審査請求)」の可能な期間、方法から成功事例まで解説
“税制改正”の見込み?相続税・贈与税は一体化されるか
令和3年12月10日に公表された「令和4年度税制改正大綱」では、相続税と贈与税をより一体的に捉えて課税するため、現行制度のあり方の見直し等、本格的な検討が進められるとされています。
令和3年度税制改正大綱でも同じ文章が掲載されていることから、近い将来、相続税・贈与税の各種制度が見直しされる可能性は高いと言えるでしょう。
税制改正大綱の本文から読み取れる内容としては、「相続時精算課税制度」と「暦年課税制度」や、「贈与税の非課税措置(結婚・子育て資金の一括贈与や教育資金一括贈与等)」についての見直しが濃厚です。
税理士業界では、「暦年課税制度」110万円控除の廃止、現行の「相続時精算課税制度」の相続財産に含める期間(5年・10年・15年など)の設定、各種非課税特例制度の見直し等の改正が噂されているところです。
【関連記事】相続時精算課税制度とは?利用のメリット・申請手続きの方法|基礎から注意点まで、税理士がまるっと解説
改正前に…「相続税対策」生前贈与のメリット
近い将来、相続税と贈与税に係る税制改正が行われる可能性は濃厚ですが、通常、税制改正により過去に遡及して課税を強化する例は稀です。
つまり、改正前に現行制度を活用して生前贈与をしておけば、相続税対策として有効であるということです。
「住宅取得資金の贈与」であれば令和5年12月31日までは500~1,000万円の贈与税の非課税枠が設けられていますし、「教育資金の一括贈与」であれば令和5年3月31日までは最大1,500万円までの贈与税の非課税枠が設けられています。
しかし、これらの贈与税の非課税枠は、ここ数年の税制改正によって適用要件が見直され、贈与者死亡時の残額は相続財産として計上する等、年々対応が厳しくなっています。
また、生前贈与の各種特例を使用するにも、安易に適用してしまうと、逆に相続税負担が増えてしまうケースもあります。
生前贈与をお考えの方は、相続税に強い税理士に相談を行い、相続発生時のシミュレーションを行った上で、最適な生前贈与を選択されることが大切です。
【関連記事】生前贈与、現金手渡しでも「申告漏れ・無申告」はばれるのか?
「相続税はいくらからかかるのか」動画でも解説しています。
《相続税の申告相談なら年間申告実績1,700件超の相続専門税理士集団におまかせ》
福留 正明
税理士法人チェスター 代表社員
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