悠々自適な老後を楽しむA夫婦の“長年の夢”

66歳のAさんは昨年、長年勤めた職場を定年退職し、同い年の妻Bさんとともに郊外の戸建で暮らしています。住宅ローンはすでに完済しており、生活に不自由はありません。

そんなA夫婦は、退職する前から老後のライフプランを考えていました。

具体的には、夫婦で月約29万円の年金と、退職金を含めた約5,500万円の貯金の使い道です。まず、支出を急に減らすことは難しいと考え、しばらくの間は現在の月38万円ほどで生活しながら、徐々に減らしていくことにしました。

また、将来親や自分たちの介護・看護が必要になった時のため、1,000万円は使わずに残しておくつもりです。あとは毎月の赤字分の補填や、車の買い替え、海外旅行、それに築30年以上経った自宅のリフォーム費用などに使おうと決めました。特に「自宅のバリアフリー化」は念願でした。

住み慣れたわが家でいつまでも夫婦仲良く暮らしながら、近くに住む子と孫が遊びにきて、Bさんの手料理を囲む……そんな未来に思いをはせていました。

自宅を建ててくれた懇意のX工務店に見積もりを取ったところ、工費は約1,500万円とのこと。高額でしたが、夫婦は「夢が叶うなら」と、お願いすることにしました。

「金額」に驚愕…ひとり娘からの“おねだり”

夫婦が一連の計画を立てていたある日のこと、ひとり娘のCさん(35歳)が実家に立ち寄りました。Cさんは都内の賃貸マンションに住み、会社勤めの夫(38歳)と小学校3年生の娘(9歳)との3人暮らしです。

Cさん「やっほ~。なんか楽しそうね?」

Bさん「ふふ。そう? 実はね、もうすぐ夢が叶いそうなの」

Cさん「そうなんだ」

Cさんは、夫婦が作っていた老後の計画表に目を留めると、次のように言いました。

Cさん「ちょうどよかった。ねえ、実は娘を中学から私立に通わせようかって夫と話してるんだけど……」

Aさん「なんだなんだ、学費の取り立てか?(笑)」

Cさん「うん、まあ、それもお願いしたいんだけど……」

Bさん「あら、他にもなにかあるの?」

Cさん「娘を勉強に集中させるためには、周りの静かな環境が大切だと思うの。だから、わが家も賃貸をやめてマイホームを買おうかと思ってて。いまのうちに買っておかないと、住宅ローンの返済も追々大変になると思うし」 

Aさん「なるほど。まあ、それもそうだな」

Cさん「でしょ? それで、パパにお願いなんだけど……マイホームを買う頭金を融通してくれない?」

Aさん「頭金って、どのくらい必要なんだ?」

Cさん「えっとね、できれば1,500万円くらいお願いできたらと思ってるんだけど……」

Aさん「1,500万円!? 向こうのご両親には、この話通してあるのか?」 

Cさん「うんとね、あの人は三男だし、ちょっと望み薄みたいで……。ねえ、ちょっと考えてみて? お願い」 

Aさん・Bさん「う~ん……」

A夫婦はこれまで、愛娘からの頼みごとを断ったことはありません。悩んだ末、A夫婦はCさんのいうとおり、1,500万円の住宅購入資金を生前贈与することにしました。