「畳の上で死にたい」おひとりさまの大往生
■「ぜったい畳の上で死ぬ」が叶った一人暮らしのおじいちゃん
完全なるおひとりさまで在宅死を遂げたのは、93歳のK茂おじいちゃん。
奥さまがずいぶん前に先立たれて、お子さんもいないので、ずっとひとり暮らしでやってきた方でした。ご兄弟も旅立たれ、血縁の方はいらっしゃいませんでした。
私が訪問診療に入ったときも、はじめから強い意思がおありで、開口一番こう言いました。
「オレは絶対に病院とか施設とかに行く気はないから、ここでなんとかしてくれな。畳の上で死にたいんだ」
K茂おじいちゃんは、それまでにも入退院を繰り返していて、医師や看護師が何度も様子を見に来ては「あれしろこれしろ」と言われるのに、もううんざり。だから自宅でひとりでのんびり死にたいんだという、強い希望がありました。
ですから、人の出入りをできる限り減らしたいと、介護保険サービスは最小限を希望されていました。経過中に発熱があったときも、おそらく肺炎であったこともありましたが、「自宅で治療ができる範囲で治らなければ仕方ない」と、病院受診は断固拒否されました(そのときは幸い抗生物質の点滴で改善されました)。
だんだん動けなくなってきて、おむつになっても、「最近のおむつは性能がいいだろ? だから大丈夫だよ」と、私の訪問診療のほかには、1日1回の訪問介護と週1回の訪問看護のみ。お伺いすると決まって笑顔で迎えてくださいますが、「ひとりは気楽でいいよ」と常々おっしゃっていました。寝たきりになり、床ずれを心配して介護ベッドをお勧めするも「布団がいちばん」と、もちろんお断りでした。
それから2週間ほどして、K茂おじいちゃんは、約束どおり畳の上で眠るように亡くなりました。おひとりさまの大往生をしっかりお見送りできました。
■おひとりさまの在宅死と孤独死は別もの
ひとり暮らしで最期を迎える場合、介護士や看護師などが訪問中に息を引き取ることもありますし、おひとりで亡くなって、翌朝に訪問した看護師や介護士が見つけるという場合もあります。
ただ、いずれにしても在宅ケアに携わってきたチームみんなで支え見守った最期ですから、たとえ、おひとりのときに逝ったとしても、孤独死ではないのです。
また、ひとり暮らしの方が、おひとりのときに亡くなった場合でも、在宅医が関わっていて、老衰や末期がんなど死に至る病気の経過があり、その病気で亡くなったことが明らかであれば、在宅医は死亡診断書を発行できるため、自宅に警察が来ることはありません。
ですから、おひとりさまであっても、暮らし慣れた場所で、安心して穏やかな死を迎えることができます。
中村 明澄
在宅医療専門医
家庭医療専門医
緩和医療認定医
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