キャッシュレス化が進む現代でも、現金主義を貫く高齢者は一定数存在します。「いつでも使える」「目にみえる」という安心感の一方で、当然ながらリスクも存在します。本記事ではAさんの事例とともに、現金保管の落とし穴について、社会保険労務士法人エニシアFP共同代表の三藤桂子氏が解説していきます。※プライバシー保護の観点から、相談者の個人情報および相談内容を一部変更しています。
「銀行は信用できない」床下に“タンス預金2,000万円”を隠した年金月7万の80歳父…リフォーム業者も長女も驚愕した〈札束の成れの果て〉。日本銀行に持っていってさらなる驚愕【FPが解説】
「現金主義」の父と、進むキャッシュレス化
Aさんは弟との二人姉弟。二人の父は長年、個人商店を営んでいました。近年は都心から離れたところでも大型ショッピングセンターが進出している影響で、客足は徐々に減少。母が亡くなったことを機に、父は店をたたむ決断をしました。
父は昔気質な人間です。PCはもちろんのこと、スマートフォンも使いこなせず、家の固定電話にいたっては、ほんの数年前に故障するまで黒電話を使っていたほど。携帯電話は必要ないと豪語していましたが、母が脳梗塞で倒れた際、携帯があればもっと早く救急車を呼べたのにと悔しがり、ガラケーをしぶしぶ持ち歩いています。
そんな父の買い物は、もちろん現金一択。近年、急速にキャッシュレス化が進み、ポイント還元などのメリットも大きいため、世間では広く浸透しています。経済産業省の消費者実態調査の分析結果によると、日常生活において「7~8割程度以上キャッシュレスを利用する」と回答した人は全体の54%にのぼります。
年代別にみても、60歳~69歳では58%、70歳~79歳でも57%の人が日常的にキャッシュレスを利用しており、高齢者=現金主義、という図式は崩れつつあります。一方で、現金主義の人も、60歳~69歳では12%、70歳~79歳で14%と一定数存在します。Aさんの父も、まさしくこの一人です。蓄えたお金も銀行には預けていませんでした。
自宅に現金を置く理由
Aさんの父のように、現金を金融機関ではなく自宅に保管する、いわゆる「タンス預金」を選ぶ人は少なくありません。その背景には、いくつかの理由があります。
一つは、2005年4月からのペイオフ(預金保険制度)全面解禁の影響です。万が一金融機関が破綻した場合に、預金保険制度の対象となる預金等の範囲は、「1金融機関ごとに合算して元本1,000万円までと破綻日までの利息等」のみ(預金保険制度により、当座預金や利息の付かない決済用預金などの普通預金等は、全額保護されます)。それを超える部分は、破綻した金融機関の残余財産の状況に応じて支払われるため、一部支払われない可能性があるのです。
さらにAさんの父には、苦い経験がありました。店を経営していたとき、訪問してきた銀行員にリスクの高い投資を勧められ、一生懸命貯めたお金を元本割れさせてしまったのです。以来、父親は「銀行は信用できない、自分の近くに持っているのが安心だ」と話しています。
ペイオフ制度の怖さと、過去の銀行に対する不信感から、金融機関手元に置いておくほうが安全と思う気持ちが強くなりました。父の年金は国民年金のみで、月額7万円弱。それだけでは生活費が足りないため、生活費の補填用に300万円ほどを手元の金庫に入れ、残りのお金は別の場所に隠すという徹底ぶり。さらに、「最近は高齢者が一度に多額の現金を引き出せないから、近くに現金をしまっておけば、いざというときはすぐに用意できる」と自慢げに話していました。
しかしながら、自宅が安全かどうかは別の問題です。当然ながら、火災や地震、洪水などの災害によって消失や盗難するリスクがあります。オレオレ詐欺等で騙される懸念もあります。