新築競う業界に欠けている顧客マーケティング
住宅マーケットが変わる
今回のコロナ禍は、ホテルなどの宿泊業や商業施設への影響ばかりが取り上げられがちですが、人々の働き方が変わることによってオフィスのあり方に影響が及ぶことはすでに述べたとおりです。そしてオフィスのあり方が変わってくれば、これまで毎朝毎夕都心にあるオフィスまで、真面目に通勤していた人々のライフスタイルにも一大変革が訪れます。そしてライフスタイルの変革は当然のことながら、住宅マーケットに及んでくることになります。
農業が人を耕作地に定住させてきたように、産業革命が起こり工場の近くに労働者が居を構える、そして現代は多くの事務系ワーカーが都心部にある会社に通勤するための家を買う。これまでは働く場所に近いところに居住するというのが基本でした。それではポスト・コロナ時代に人々はどのような家選びを行なうようになるのでしょうか。
まず、情報通信技術を利用すれば、会社の所在地をあまり気にすることなく、自らが住む場所や家を選ぶことができるようになることから、選択肢は限りなく広くなります。この変化は、これまで都心部に高層マンションを建設して、会社ファーストの需要に応えてきたデベロッパーにとっても、戦略の大幅な見直しを迫られるものとなります。
人々が「密」を避けるようになったからといって、全員が郊外に住むようになるとも限りません。一部の人々は相変わらず都心居住に拘るでしょう。人は都市部における一定の便利さを求めることに変わりはないからです。ただ、人々の欲求によって、選択するエリアがだいぶ多様化するだろうことは容易に予想できます。集中から分散への流れです。
都心部に集中することなく、趣味趣向性から幅広いエリアで家が選ばれるようになれば、地価の形成にも影響が出てきます。都心のブランド立地は、国内外の投資マネーが入ってきますので、大きく下落することはありませんが、地価はそれぞれのエリア、街の住みやすさで決まる時代になるでしょう。これまでのように全員が同じ価値観で行動するのではなく、自然派vs都会派、山派vs海派、山の手派vs下町派、大都市派vs地方都市派など、それぞれの居住の軸が異なる選択が増えてくるでしょう。
ようやく住宅マーケットにも、顧客マーケティングの発想が必要になるのです。
「ようやく」と言ったのは、実はこれまでマンション業界などでは、顧客マーケティングの考え方が希薄だったからです。つまり、人々は「当然」のこととして、会社ファーストの家選びしかしないので、都心立地の超高層マンションを建設する。超高層マンションなら、一度に多数の住戸を提供できるので、販売効率がきわめて良い、ということでした。