
新型コロナウイルスの感染拡大によって不動産の世界は激変している。景気後退が叫ばれ、先行き不透明感が増すなか、日本経済はどうなるか、不動産はどう動くのかに注目が集まっている。本連載は、多くの現場に立ち会ってきた「不動産のプロ」である牧野知弘氏の著書『不動産激変 コロナが変えた日本社会』(祥伝社新書)より一部を抜粋し、不動産の現状と近未来を明らかにする。
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オフィス空室率4%が貸手、借手の分水嶺
オフィス受難時代の到来
ポスト・コロナの不動産を語る場合、私から見て最も大きな影響を被るのが、ホテルや商業施設ではなく、実はオフィスビルマーケットではないかと思っています。
オフィスビルマーケットは五輪が開催される予定の東京都区部のみならず、名古屋、大阪を加えた三大都市圏から地方四市(札幌、仙台、広島、福岡)のマーケットも20年前半まで絶好調をキープしています。20年5月現在、各エリアの空室率は東京(都心5区)で1.64%。名古屋2.50%、大阪2.18%ときわめて低い水準が保たれています。この傾向は地方都市もまったく同じで、同時期のデータを拾うと、札幌1.94%、福岡2.35%など軒並み2%台の水準にあります。

オフィスの空室率は一般的には4%が貸手、借手の分水嶺と言われます。つまり4%を超えると賃貸借の条件交渉などでは俄然テナント側が優位に立てる、4%を切るとビルオーナー側が強気になる、そんな水準が4%です。
この物差しで見ると、日本の主要都市は、どこもオフィスは貸手市場ということになります。特に空室率が2%台になると、テナントはほぼ身動きができない状況に陥ります。つまりあるテナントが業容などの拡大で、もっと広い大きなビルに借り換えようと思ってもマーケットには適当な物件がない、という状況を物語っているのです。
今回のコロナ禍では、すでに業務の大半をテレワーク化して、余分となったオフィス床を減らしていこうという動きが一部で顕在化している、との報道が相次いでいます。そのいっぽうで、こうした素早い動きをしているのは、東京の渋谷などにオフィスを構えている新興系のIT企業であって、オフィスビルマーケットそのものに深刻な影響を及ぼすものではないとの見方もあります。
さらに一部のデベロッパーからは、コロナ禍が過ぎ去れば、オフィスにはコロナ前と同様に社員が出勤するようになる。それどころか企業は、従業員の感染リスクを極小化するために社員同士のソーシャルディスタンスを保たなければならないので、社員間の机を2メートル以上離すことが必要になる。だからオフィス床を増床するだろう、との観測まで出ています。
たしかに一部の裕福な企業では、そうした対処をするところもありそうですが、多くの企業では、社内の部署ごとにテレワークができる部署、できない部署に分け、社員の多くをシフト勤務にしていくのが、これからの大きな流れになるのではないかと睨んでいます。そう考えるとやはり、多くのオフィスで床が余るという現象は避けられないものになってきそうです。