ライフスタイルの多様化でマンションブーム終焉?
そこで、ポエムをたくさん描いて、人々をモデルルームに誘い込み、ひとときの夢を持たせ、二度とない立地、早くしないと他の客が買っちゃいますよ、と得意のセリフで買わせてきました。業界にとっての顧客は、会社ファーストを考えるだけの「マス」の存在だったのです。
ところが、人々が自らのライフスタイルに拘りを持てるようになれば、マンションのような画一的な住宅の形態が流行らなくなる可能性があります。日本の新築マンションは構造軀体だけでなく、内装についてもすべてお仕着せの間取り、壁紙や、キッチン、トイレなどの住宅設備をあらかじめ備えてきましたが、これからは顧客が自由にデザインを選ぶスタイルが主流になってくるでしょう。今でも一部でプランの選択は可能ですが、あくまでもデベロッパー側が提供する三択から一つといった画一的なものでした。これからは、もっと顧客の意向を反映したものになるはずです。
また新築住宅に対する拘りはなくなり、中古住宅を自分の好みに応じてリノベーションを施して、自分らしく住むという生活スタイルが定着していくものと思われます。リノベーションこそは顧客が自分の趣味趣向で自由に中身を変えられるものですが、これまでは顧客側がとにかく忙しく、内装のデザインや設備仕様を考えることを面倒に感じたり、そもそも自分の趣味趣向をよく理解していなかったりするために、自らの頭でリノベーションを考えない傾向がありました。
これまでの日本人の生活はあまりに余裕がなさ過ぎました。すべてが仕事中心、子供中心で、大人がゆったりとした時間を楽しむゆとりというものがありませんでした。今回はあまり触れませんでしたが、ポスト・コロナ時代には、子供の教育についても考え方が変わるでしょう。子供たちも学校にあたりまえのように「通学」して、教室で授業を受けることが勉強である、という常識にも楔が打ち込まれると見るからです。
コロナ禍では多くの学校が授業を行なうことができませんでした。いっぽうでオンライン授業などをいち早く取り入れて勉強の遅れがないように対策を打ち出す学校が私学を中心に現われました。教育の現場でも、「毎日生徒は学校にやってきて授業を受ける」という従来の常識が打ち破られたのです。ポスト・コロナでは、学校でも毎日登校する必要がなくなるかもしれません。そうなれば、子供の学校を一番に、家選びを行なう「学校ファースト」の家選びにも変化が生まれそうです。
家族が家を基点に、街を活動フィールドとして生活を楽しむようになる。こうしたライフスタイルが定着してくれば、人々は都心居住の呪縛から徐々に解放されて、分散して居住するようになるでしょう。
生活の楽しみ方もさまざまです。よく、「そんなことを言ったって、都心は便利だし楽しい、だからポスト・コロナになっても都心集中は変わらない」という意見も耳にしますが、生活の楽しみ方をステレオタイプに考えているだけのような気がします。