(※写真はイメージです/PIXTA)

物価高騰への対応や低所得者への支援策として、「給付付き税額控除」の導入に向けた議論が進んでいます。納税額に応じた減税に加え、控除しきれない分を現金給付などで補う仕組みであり、消費税の逆進性の緩和や所得再分配機能の強化が期待されています。一方、過去には給付付き税額控除が政策課題として浮上しながらも、議論が停滞した時期がありました。『食料品消費税1% 減税×給付付き税額控除の真実』の著書がある矢内一好氏が、2024年の定額減税に対する評価も踏まえ、日本における議論の変遷と、制度導入に向けた課題について解説します。

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給付付き税額控除とは?

給付付き税額控除は、物価高騰への対応や家計支援策、消費税の逆進性の緩和策として注目されています。納税額が多い層には減税を、納税額が少ない層や非課税世帯には現金給付や社会保険料の減額などを行う制度です。

 

所得税の累進税率の下では、限界税率の高い高所得者ほど、所得控除による減税効果が大きくなります。租税回避で話題となるタックスシェルターがその一例です。一方、税額控除は低所得者に手厚い制度です。納付すべき税額を控除額が上回る場合や、納付すべき税額がない場合には、現金給付などが行われます。

 

これまで、税制の枠内では、「戻し税」や「定額減税」といった形で税の還付や減税が行われてきましたが、社会保障と税制を一体化させた低所得層への給付は、新たな政策の枠組みといえます。現行の社会保障制度では、児童手当、生活保護給付、失業手当などの措置が講じられています。今後は、所得税における各種所得控除の再整備に加え、これらの手当などと給付付き税額控除との整合性が問題となるでしょう。

 

給付付き税額控除に関する論稿は、税法理論というよりも、経済学、財政学、社会福祉などの領域で発表されたものが多く見られます。また、社会福祉の分野における国と地方政府の役割分担の整理、関係官庁の縦割り行政の是正、国税に資料がない低所得者の把握なども課題となります。

 

税法固有の領域では、所得控除と税額控除の再整備や、源泉分離課税が適用されている資産所得の把握方法などが、今後の焦点になると見込まれます。そのためには、マイナンバー制度の活用など、給付付き税額控除の適用基盤となるインフラとの連携が鍵となるでしょう。

ベーシックインカムと負の所得税

16世紀ごろの英国では、貧民救済の仕組みとして、後のベーシックインカムにつながる考え方が唱えられました。当時の英国では、救貧法に基づいて救貧税を徴収し、経済的に困窮している農民などを救済していました。近年では、1970年代に北米などで関連する制度が試みられましたが、国レベルでの本格的な実施には至っていません。ベーシックインカムの特徴は、所得にかかわらず、すべての人々に無条件で給付を行う貧困対策であることです。

 

米国の経済学者で、ノーベル経済学賞を受賞したミルトン・フリードマン(1912年7月31日~2006年11月16日)が提唱したのが、負の所得税です。負の所得税は、所得が一定の基準を下回る低所得者に対し、その差額の一定割合を給付する制度です。

 

例えば、所得税率がマイナス10%の場合、所得金額が50万円であれば、5万円が支給されることになります。この負の所得税を理論的支柱として、米国型の給付付き税額控除が立法化されました。

 

負の所得税は、フリードマン以前にも提唱されていましたが、その理論が政策に反映される契機となったのは、1962年に刊行されたフリードマンの著書『資本主義と自由(Capitalism and Freedom)』です。この著書は、経済学や租税理論の分野で注目を集めました。しかし、日本は当時、高度経済成長期にあり、負の所得税が政策として取り上げられるようになったのは、次項の年表に示す時期以降です。

次ページ日本における給付付き税額控除論議の経緯

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