「しばらく実家に住ませて」娘と孫が戻ってきた日
「老後にまた5人分の夕飯を作るなんて、思ってもいませんでした」
そう話すのは、71歳の和枝さん(仮名)です。
和枝さんは73歳の夫・正男さん(仮名)と、郊外の一戸建てで暮らしていました。夫婦の年金収入は月約21万円。住宅ローンは完済しており、2人で暮らすには不自由のない生活を送っていたといいます。
そんな日常が変わったのは、半年前のことでした。
「お母さん、しばらく実家に住ませてもらえないかな」
電話をかけてきたのは、43歳の娘・美咲さん(仮名)。小学6年生の長男と小学3年生の長女を育てています。
美咲さんは夫との離婚が決まり、子どもたちを連れて家を出ることになったといいます。
「急いで部屋を探しているんだけど、子どもの学校もあるし、すぐには決められなくて」
和枝さんは、娘が困っているなら助けたいと思いました。
「空いている部屋もあるし、落ち着くまでいればいいわよ」
2階には、かつて子どもたちが使っていた部屋が残っています。家具を移動させ、布団を用意すると、久しぶりに家の中がにぎやかになりました。
ところが同居が始まって数日で、和枝さんは生活の変化を実感します。
「おばあちゃん、明日の朝ご飯はパンがいい!」
「僕、お魚よりお肉が食べたい」
孫たちの声が飛び交い、夕方になると台所は慌ただしくなりました。
美咲さんはフルタイムで働いており、帰宅するのは午後7時頃。和枝さんは、学校から帰ってきた孫の世話と夕食の準備を引き受けるようになりました。
「娘が働いている間くらいは、私がやってあげようと思ったんです」
しかし5人分の食事を作るのは、夫婦2人のときとは勝手が違います。
買い物の量が増え、洗い物も倍以上に。孫たちの好みに合わせて別のおかずを作る日もありました。
「2人なら残り物で済ませる日もあったのに、今はそうはいきません。夕方になると、何を作ろうかと考えてばかりです」
それでも、娘の生活が落ち着くまでの辛抱だと考えていました。ところが同居から3ヵ月ほどたった頃、美咲さんが思いがけないことを口にします。
「子どもたちもここに慣れたし、しばらくこのまま住んでもいいかな」
