「今から来られない?」深夜に届いた母からの電話
「明日まで待てないの。お願い、今から来てくれない?」
午後11時を過ぎた頃、52歳の由紀さん(仮名)のもとに、83歳の母・文子さん(仮名)から電話がかかってきました。
文子さんは5年前に夫を亡くし、実家で一人暮らしをしています。由紀さんは車で40分ほどの場所に住んでおり、週に2回ほど電話をするほか、月に数回は実家を訪れていました。
「母は夜遅くに電話をかけてくるような人ではないんです。声も震えていたので、何かあったのかと思いました」
由紀さんが体調を尋ねると、文子さんは「具合が悪いわけじゃない」と答えました。しかし、何があったのかを聞いても、なかなか話そうとしません。
「とにかく、来てから話すから」
ただ事ではないと感じた由紀さんは、急いで車を走らせました。
実家に着くと、文子さんは居間の明かりをつけたまま、テーブルの前に座っていました。
「お母さん、どうしたの? 何があったの?」
文子さんは、テーブルに置いてあったスマートフォンを差し出しました。画面には、見知らぬ番号からの着信履歴が何件も残っていました。
「今日、知らない人から電話があってね。お金を払わないと大変なことになるって……」
由紀さんは驚き、詳しい事情を聞きました。
文子さんによると、その日の夕方、携帯電話に知らない番号から着信がありました。相手は通信サービスの料金が未払いになっていると説明し、このままでは法的な手続きに進む可能性があると告げたそうです。
文子さんには身に覚えがありませんでしたが、相手は名前を知っており、専門的な言葉を次々と並べてきました。
「私が何か忘れているのかと思ってしまって。裁判になるなんて言われたら、怖くなってね」
相手は、翌日までに指定された口座へ30万円を振り込むよう求めたといいます。文子さんが「娘に相談したい」と伝えると、「第三者に話すと手続きが複雑になる」と言われたそうです。
「それで、誰にも言えなくなっちゃったの」
電話を切ったあとも着信が続き、文子さんは夕食をほとんど食べられませんでした。
「明日の朝、銀行が開いたら払わないといけないと思って。でも、本当に払っていいのかわからなくて……」
文子さんは、夜遅くまで迷った末、由紀さんに電話をかけたのでした。
