「今年は帰らないから」息子の帰省を楽しみにしていたが…
「正月も帰らないから。今年は家族だけでゆっくり過ごそうと思ってる」
10月下旬、72歳の孝子さん(仮名)のスマートフォンに、息子からLINEが届きました。
孝子さんは同い年の夫・修三さん(仮名)と2人暮らし。夫婦の年金収入は合わせて月約20万円で、住宅ローンを完済した一戸建てに住んでいます。
息子の健司さん(44歳・仮名)は、妻と中学生の娘、小学生の息子との4人暮らし。車で2時間ほどの場所に住んでおり、毎年お盆と正月には家族で帰省していました。
「夏休みは孫の部活動が忙しくて来られなかったんです。だから、お正月には会えると思っていました」
孝子さんは毎年、息子一家が帰省する前に布団を干し、孫たちの好きなお菓子を買いそろえていました。大みそかにはすき焼きを囲み、元日はおせち料理を食べる。孫たちが小さかった頃から続いてきた習慣です。
「今年もすき焼きにしようかって、夫と話していたところだったんですよ」
突然の連絡に戸惑った孝子さんは、すぐに返信しました。
「どうしたの? 何か予定があるの?」
すると、健司さんから「特に予定はないけど、今年は家で過ごしたいんだ」と返事が届きます。孝子さんは、思わず電話をかけました。
「元日だけでも来られないの? お父さんも楽しみにしているのよ」
「ごめん。今年は帰らないって決めたから」
健司さんの口調は穏やかでしたが、考えを変える様子はありません。
「そんなに遠いわけでもないでしょう。顔を見せるくらい、できないの?」
孝子さんがそう言うと、健司さんは少し黙ってから答えました。
「母さんたちに会いたくないわけじゃないよ。でも、毎年帰るのが当たり前になってるのは、ちょっとしんどいんだ」
孝子さんは言葉を失いました。
「しんどいって……。今まで、そんなこと言わなかったじゃない」
「子どもたちも大きくなったし、正月くらい自分たちの家でのんびりしたいんだよ」
電話を切ったあと、孝子さんは夫に事情を話しました。
「帰ってこないんだって。何だか、寂しいわね」
修三さんも残念そうでしたが、「向こうにも都合があるんだろう」と言うだけでした。孝子さんには、息子の言葉がどうしても引っかかっていました。
