「これからは、いつでも会えるね」娘一家の近くへ引っ越し
75歳の節子さん(仮名)は、2年前に地方の一戸建てを売却し、娘一家が暮らす街へ引っ越しました。
夫は8年前に亡くなり、現在は一人暮らし。自身の老齢年金と遺族厚生年金を合わせて、月約17万円を受給しています。
以前は夫と40年近く暮らした家に住んでいましたが、庭の手入れや建物の維持管理が負担になり、住み替えを考えるようになったそうです。
そんなとき、44歳の長女・真由さん(仮名)から声をかけられました。
「お母さん、こっちに引っ越してきたら? 何かあったときも安心だし」
真由さんは夫と小学4年生の長男、小学1年生の長女の4人暮らし。節子さんの家からは電車を乗り継いで約2時間の場所に住んでいました。
節子さんは、娘一家の近くに住めることを素直に喜んだといいます。
「孫たちが小さいころは、会うだけで一日がかりだったんです。近くに住めば、学校行事にも行けるかなと思いました」
以前の家は約2,400万円で売却。新居には、娘一家の自宅から徒歩15分ほどの場所にある中古マンションを選びました。
購入費用と諸経費は合わせて約2,100万円。引っ越し後も預貯金は約900万円残り、毎月の生活費も年金の範囲で賄える見込みでした。
駅やスーパーが近く、暮らしやすい環境です。
引っ越した直後は、真由さん一家が荷ほどきを手伝いに来てくれました。
「これからは、いつでも会えるね」
孫たちにそう話しかけると、2人とも笑顔でうなずいてくれたそうです。
ところが新生活が落ち着くにつれ、節子さんは思っていたほど娘一家と会えないことに気づきました。
真由さん夫婦は共働きで、平日は帰宅が遅くなりがちです。週末も子どもたちの習い事や友達との約束があり、家族で出かけることも少なくありません。
「最初は、近くに住んだら週に一度くらい会えると思っていたんです。でも実際は、月に一度会えればいいほうでした」
それでも節子さんは、学校行事には声をかけてもらえると期待していました。昨年の秋、孫の運動会が近づいたころ、真由さんに尋ねてみたそうです。
「運動会はいつなの? 私も見に行っていいかしら」
すると真由さんは、少し言いにくそうに答えました。
「今年は私たちだけで行くつもりなの。ごめんね」
学校から祖父母の参加を禁止されているわけではありません。ただ真由さん夫婦は、子どもたちの写真や動画を撮りながら、親子だけで過ごしたいと考えていたようです。
節子さんは「そうなのね」と答え、それ以上は聞けませんでした。
