「65歳までは働くよ」定年後も会社に残るつもりだったが…
「周りもほとんど再雇用を選んでいたので、自分もそうするものだと思っていました」
そう振り返るのは、メーカーに勤めていた隆司さん(仮名・60歳)です。58歳の妻・恵美さんと2人で暮らしています。2人の子どもはすでに独立。住宅ローンも58歳で完済しました。
隆司さんの会社では60歳が定年ですが、希望すれば再雇用で働き続けることができます。50代後半になると、同僚との会話にも「定年後」が頻繁に登場するようになりました。
「お前も残るだろ?」
そう聞かれるたび、隆司さんは「もちろん。65歳までは働くよ」と答えていたそうです。
ところが、定年を半年後に控えたころ、妻との会話がきっかけで考えが揺らぎます。
休日、テレビで北海道の旅番組を見ていた恵美さんが「ここ、行ってみたいね」と話しました。隆司さんが「定年したら行こう」と答えると、妻は笑いながらこう返したといいます。
「定年しても、そのまま働くんでしょ?」
言われてみれば、その通りでした。
夫婦は以前から旅行が好きでしたが、隆司さんが管理職になってからは長い休みを取りにくくなり、ここ数年は1泊程度の旅行が中心。北海道を鉄道で回る旅や東北の温泉巡りなど、「時間ができたら行こう」と話している場所がいくつもありました。
「65歳になったら行けばいいと思っていたんです。でも妻はそのとき63歳。5年って、短いようで長いなと思ったんですよね」
内閣府『令和6年度 高齢者の経済生活に関する調査』では、何歳ごろまで収入を伴う仕事をしたい、またはしたかったかという質問に、「65歳くらいまで」と答えた人が23.7%、「働けるうちはいつまでも」が22.4%でした。60歳以降も働くことを前提に考える人は少なくありません。
ただ、隆司さんが気になったのは金銭面です。
退職金は約2,600万円。それとは別に夫婦の預貯金が約1,800万円ありましたが、隆司さんの公的年金を本格的に受け取るのは原則65歳からです。
「退職金があるから大丈夫、とは考えませんでした。5年間収入が減るわけですから」
そこで夫婦は、初めて「再雇用しなかった場合」の家計を具体的に計算することにしました。
