災害時に見落とされがちな「労務対応」
災害時の資金繰りや税務と並んで、経営者にとって重要になるのが、従業員の雇用と労務対応です。
事業所が損壊して営業できない、従業員が出勤できないといった状況では、「給与をどのように扱うのか」「雇用をどのように維持するのか」といった判断が必要になります。
特に中小企業では、限られた経営資源の中で、事業の復旧と従業員の生活維持を両立させなければなりません。
災害時には、融資や補助金など資金面への対応に目が向きがちですが、従業員への対応を誤ると、事業再建後の人材確保にも影響する可能性があります。
千葉県庁で30年以上にわたり行政の現場に携わってきた、たいさんぼく社労士・行政書士事務所代表の安部香織氏は「災害時こそ、従業員との情報共有が重要です」と指摘します。
「災害が発生すると、経営者の方は建物や設備の復旧、資金繰りへの対応に追われます。しかし、従業員の方にとっても『会社は今後どうなるのか』『給与はどうなるのか』『いつから仕事に戻れるのか』という不安は非常に大きなものです。すぐに具体的な回答ができない場合でも、現在確認できている状況や、今後の対応方針をできるだけ早く伝えることが大切です。災害時の労務対応では、制度を正しく利用することに加えて、従業員との信頼関係を維持するためのコミュニケーションが重要になります」
休業させた場合の賃金の取り扱い
災害によって事業所を休業せざるを得なくなった場合、従業員の賃金をどのように扱うかは、経営者にとって大きな判断事項になります。
労働基準法26条では、「使用者の責に帰すべき事由」による休業について、平均賃金の6割以上の休業手当を支払うことが義務付けられています。
一方で、地震や台風などの自然災害による休業については、必ずしも休業手当の支払い義務が発生するとは限りません。
厚生労働省の解釈では、天災事変による休業が「使用者の責に帰すべき事由」に該当しないと判断されるためには、
②事業主が通常の経営者として最大の注意を尽くしてもなお避けることができない事故であること
という条件を満たす必要があります。ただし、災害の種類や被害状況、会社側が取った対応などによって判断は異なります。
安部氏は「『災害だから休業手当を支払わなくてよい』とは限りません」と言います。
「災害による休業では、『不可抗力によるものなのか』『会社側に対応できる余地があったのか』という点が重要になります。例えば、建物が損壊して営業できない場合でも、被害状況や復旧までの期間、他の場所で業務を継続できる可能性があるかなどによって判断が変わる場合があります。経営者の方が自己判断で『災害だから休業手当の支払いは不要』と考えるのではなく、必要に応じて労働基準監督署や社会保険労務士へ相談することをおすすめします」
雇用調整助成金の特例措置
従業員を休業させながら雇用を維持したい場合に活用が検討される制度の一つが、雇用調整助成金です。
この制度は、景気変動や産業構造の変化などの経済上の理由により、事業活動の縮小を余儀なくされた事業主が、従業員の雇用を維持するために休業などを行う場合、その費用の一部を助成するものです。
過去の大規模災害では、被災地域の事業者を対象として、支給要件の緩和や助成内容の拡充など、特例措置が実施された例があります。
今回の地震についても、今後、厚生労働省から特例措置が発表される可能性があります。
安部氏は助成金活用には日頃からの記録管理が重要であると話します。
「雇用調整助成金などの制度は、災害発生後に利用を検討する企業も多いですが、申請には休業日や従業員の勤務状況、賃金支払い状況などの記録が必要になります。災害時に慌てて準備しようとしても、必要な資料がすぐに揃わないことがあります。日頃から適切な勤怠管理や給与管理を行っておくことが、いざという時の迅速な対応につながります」
