通常の薬でも高齢者に特有の副作用もある
■高齢者の不眠にはセロトニンを増やす抗うつ剤が有効
不眠症に使われるベンゾジアゼピン系の睡眠薬は、神経の興奮を抑える薬で、寝つきをよくする効果があり、高齢者の不定愁訴にもよく効くというメリットがあります。
しかし、高齢者に特有の副作用として物忘れや、筋弛緩作用による足のふらつきを起こし、転倒や骨折のリスクを高めます。またベンゾジアゼピン系の睡眠薬は、神経細胞の活動をダイレクトにブロックする作用により、活力を落とすというデメリットもあります。
さまざまな副作用を考慮して、高齢者にはベンゾジアゼピン系の睡眠薬を使わない方向になっています。その代わりとして、脳内の神経伝達物質であるセロトニンを増やす(SSRI)抗うつ剤を使うと、夜中に目覚める回数が減り、元気も出てきます。
私の臨床経験では、セロトニンを増やす抗うつ剤は、不眠の治療に有効なことが多いという印象があります。
■痛みには消炎鎮痛剤ではなく足し算系の薬がいい
セロトニンは、喜びや快楽にかかわるドーパミンや、恐怖にかかわるノルアドレナリンの働きをコントロールして、脳の興奮にブレーキをかけ精神を安定させます。
加齢によりセロトニンが足りなくなってくると、痛みに敏感になり腰痛などを引き起こします。
これまで痛みにたいしては、痛みを抑える消炎鎮痛剤を用いるのが一般的でしたが、2016年、セロトニンやノルアドレナリンを増やす(SNRI)抗うつ剤(サインバルタ)が、慢性腰痛症(発症から3カ月以上痛みが続いる腰痛)の適応となりました。腰痛がつらい人は、整形外科で相談してみるといいでしょう。
■アルツハイマーの進行を抑制する薬「アリセプト」も足す系
アルツハイマー型認知症やレビー小体型認知症の進行を抑制するアリセプト(ドネペジル塩酸塩)は、あまり効果がみられないといわれますが、私の臨床経験では「少しは効いている」といえます。
アルツハイマー型認知症やレビー小体型認知症では、記憶や思考にかかわる神経伝達物質のアセチルコリンが減少し、物忘れや思考力が低下すると考えられています。アリセプトはアセチルコリンを足す作用があります。認知症が治癒するわけではありませんが、アセチルコリンが増えることで脳が少し元気になるし、使っていない脳が使っている状態になるので、私は使う価値があると考えています。
和田 秀樹
ルネクリニック東京院 院長
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