社内で現状「8割」が利用していない「既存ツール」
~前回までのあらすじ~
筆者・中西聖氏は、自社のDXを進めるにあたり、まず7つある部門をつなぐシステムを構築する必要があると考えた。その後、部門ごとのIT環境を全体化するため、全社で共通して使う機能を搭載した全社共通のプラットフォームを決めることに。会社のメインインフラといえるプラットフォームツールはすでにあったが、その利用状況は最悪で……。
営業部門の既存のCRMツールの利用状況についてDXチームから報告が上がってきた。その内容は想像したよりもひどい状況だった。CRMツールは常に使える状態になっているが、8割の社員がエクセルを使っている部門もあった。
その理由の一つは、ほとんど使わないオブジェクトなどが多く、複雑な環境になっていることだった。例えるなら、断捨離の概念がなく、不要なものや使わなくなったものが溜まって必要なものが探せない部屋のようなものだ。これは2016年の導入以来、片手間の運用でしかアップデートしてこなかった結果だった。
詳しい情報を知るために中古物件販売部門のリーダーであるイトダに話を聞いてみたところ、今の営業フローと既存のCRMツールがマッチしていないこともわかった。
彼が言うには、中古販売の営業フローでは、問合せを受けた顧客に連絡し、つながらなかった場合は数日後に再び連絡をし、それでもつながらなかった場合は次のステップに移る、といったプロセスが決まっている。このプロセスは顧客の反応などを踏まえながら部内で刷新して進化させてきたものだ。
一方、CRMツールはそのプロセスをフォローする形になっていない。本来であれば業務フローの改善に合わせてCRMツールの入力項目なども変える必要があるのだが、CRMツールのフォームは現場では簡単には変えられず、なかなかアップデートが行われない。
結果、CRMツールの入力項目と現場業務が乖離し、使いづらくなっているというわけだった。イトダの話を聞いて、営業担当者がエクセルで管理したくなる気持ちも分からなくはないな、と思った。
利用されない根本的な原因は「機能面」での問題ではなく…
ここで明らかになったことは、既存のCRMツールが普及しない原因はツールとしての仕様や機能というよりは運用の問題だということだ。
CRMツールは、導入して終わりではなく業務フローの変化や社員の成長に合わせてアジャイル的に変更していかなければならない。むしろ、ツールにできることの特性をつかんだうえで、その特性を活用できるように営業フローを進化させることが重要だ。
新たなツールを導入すべきなのか?
既存のCRMツールの現状把握を終えて、次に新たなCRMツールを導入する場合の課題について検討を始めた。新たなツールは要件のヒアリングから始めなければならない。導入までの時間が掛かり、どの程度まで現場の要件を満たすかによってコストも変わる。そこを精査する必要があった。
候補となるツールはいくつかあったが、DXチームと議論していくなかで、A社のCRMツールが良さそうだと分かった。その理由の一つは、コストメリットだ。
機能面で見ると、A社のCRMツールは既存のCRMツールに見劣りする。しかし、現状の営業フローには十分対応できる。機能の差の分だけコストメリットがあり、アップデートもさほど難しくないため現場でも操作できる。
難点は、既存のCRMツールと比べて拡張性が低いことだ。社内共通のプラットフォームとして部門間で情報を連携させていくことはできそうだが、部分最適がどこかに残ってしまうかもしれない。そうなるとかえって業務の工数が増える可能性があり、そこが心配だった。
コスト面でメリットが大きい、新たなツールの導入を決定
結局のところ、どのツールも使いようによって一長一短なのだ。むしろ完璧なツールを追求するほど導入コストも運用コストも掛かるため、自社が求める要件を満たしていればそれでよい。それなら、コストの面でも現場で簡単に改善できる点でもA社のCRMツールのほうが良いのではないかと思った。
DXチームも同じように考えたようだった。既存のCRMツールを活用していく場合、現状は安いライセンス料で収まっているが、サブプラットフォームとして運用していくのであればライセンスのグレードを上げる必要があり、保守費用も高くなる。
それならば、A社のCRMツールにリプレイスするほうがコストの面でメリットが大きい。初年度はCRMツールからの移行コストが掛かるが、2年目からは安くなる。現場で改善できるため、保守費用も安い。その点を評価して、僕はA社のツールにリプレイスすると決めた。
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