あと2ヵ月で退職、年金は1.42倍に増額

Aさんは現在69歳。メーカーを60歳で定年退職したあと、継続雇用で働きながら、年金事務所のアドバイスを受け、年金を繰り下げて将来の年金増額を目指していました。目標は70歳からの年金受給です。継続雇用に切り替わる際、報酬がそれまでのものよりも約4割減となったことに不満をもっていました。しかし不満をいっていても報酬は増えないので、これからの生活を考え、働きながら年金を1.42倍に増やそうと働きつづけ、あと1年で年金受給が開始というところまできました。

というのも、Aさんは55歳のときに長年連れ添った妻を亡くしており、ひとり息子とは別居し持ち家でひとり暮らし。在職老齢年金制度によりカットされる年金もありませんでしたから、できる限り長く働いて、将来の年金額を増やすことがAさんにとって最善の選択肢だと考えたからでした。

遠く離れて暮らす息子が、年に2回程度帰省して顔を見せてくれることはAさんにとって大きな楽しみです。息子は4年前に結婚しており、2歳になる子どもがいます。Aさんは、息子からの年末年始の帰省の連絡を受け、今年もかわいい盛りの孫と息子夫婦と会えるとうきうきして待っていました。

ひとりで帰省した息子の告白

ところが、実際に帰省したのは息子だけ。驚いたAさんは息子に尋ねました。すると、実は離婚をすることになったと打ち明けられます。さらに息子は続けます。

マイホームを買っていたが、妻は子どもと一緒に実家の近くに引っ越すことになったため自宅を売却して財産分与を行うことになった。しかし、自宅の売却額が住宅ローンの残債を下回っており、売却することができない。その差額はなんと900万円。ひとりでは到底用意できそうにないため、Aさんにお金を貸してくれないかと言うのです。

長年連れ添った妻を亡くし、息子夫婦と孫との再会がなによりも楽しみだったAさん。息子からの突然の告白に、言葉を失いました。離婚の際、心象を悪くしては孫に金輪際会えなくなるかもしれないと思うと、息子と孫のためにできるかぎりのことはしてあげたいと思うものの、2ヵ月後に迎える70歳の誕生月には退職を予定しており、コツコツと準備していた老後資金を取り崩すには不安が残りました。

「どうしてこんなことに……」Aさんは、何度も心の中でつぶやきました。