まさか…新ツールより既存ツールのほうが優れている!?
まるで天啓でも得たかのようにある考えをひらめいたのも、まさにその時だった。 A社のCRMツールよりも既存のCRMツールのほうが良いのではないか。そんな考えが浮かんだ。全社共通のプラットフォームがどうあるべきかを深く考えるほど、A社のCRMツールは役不足であるように思えてきたのだ。
気まぐれでそう思ったわけではない。A社のCRMツールを導入すると決めてから、僕は会社の今後の展開を考えていた。
3年後の不動産業界の状況を予測
不動産業界の3年後はどうなっているだろうか。契約書などはデータ化される そのデータはクラウドに保管される。新築販売も中古物件の仕入れと販売も、今よりもデータを活用するようになるだろうし、マーケティング活動もデータドリブンで顧客、相場、地価などに関する情報を分析し、それを有益に使うことで顧客価値と生産性を高くする。
AIの活用が進化し、業務に浸透していくその先の展開として、AIが経営判断にレコメンドを出すことさえ遠い未来ではない。会社単位のセキュリティレベルも今と3年後はまったく異なる水準になり、見違える世界になるだろう。
なんでもスマホやタブレット端末でできるようにする流れは数年前からあるが、今後はそれが勢いづく。不動産業界でも賃貸物件の契約や売買契約までスマホやタブレット端末で行うのが当たり前になっていくだろう。むしろ、なんでもスマホに集約する流れが変わり、部屋の鍵の開け閉めから個人情報の管理まで生体認証などで行う世の中になっていくかもしれない。
その流れに乗るために、会社の業務を支えるCRMツールは拡張性に富んだツールであることが求められる。DXによって成長していく会社の基盤の一つとして、日々の業務を支えるだけでなく成長を促進するものであることが重要になる。
そう考えたときに、A社のシステムでは不十分なのではないかと思った。コストメリットが大きく、現場で機能を付け加えたり、仕様を変更したりするといったUIとUXも高く、現場社員の評価も高いが、会社の将来を見据えて考えると、僕たちの求めるCRMツールではないと思ったのだ。
もしDXを進化させ、マーケティングやデータアナリティクスといった機能の拡張が必要になったとしたら、3年後にはA社のCRMツールでは物足りなくなり、リプレイスをすることになるだろう。その手間と無駄を考えると、これから来るDX全盛時代に向けて、もっと大きなツールをあらかじめもつほうが良いのではないか。
予算は膨らむが、いずれ効果が得られるのであれば、中長期目線の費用対効果という点で問題はない。そんなふうに考えたとき、僕はいよいよA社のCRMツールを導入すると決めた自分の判断を疑うようになり、間違った判断であるような気になったのだ。3年後やその先を見据えたとき、会社のシステムはどうあるべきなのか。
僕はそのことをイワサキに相談してみた。イワサキの答えは「3年後のことは分からない」というものだった。確かにそうだ。IT業界は変化が早く、技術やサービスの多様化も進んでいる。
「技術もサービスも複数の会社が競争していますから、進化のスピードが速いんです。そういう時代であることを前提とするなら、3年後にはシステムの技術レベルが陳腐化し、使えなくなることを承知のうえで、必要最低限の機能を満たす低コストのツールを入れるという手が一つだと思います」と、イワサキは言う。
変化が起き、ツールに求められる要件が大きく変わる可能性を考慮すると、A社のCRMツールを選ぶことに論理的な根拠があるということだ。 一方で、イワサキはこうも言った。
「ただ、不確実性の時代を中長期で考え、我々が先駆者として変化を前のめりにとらえていく会社となるなら、どういう変化にも対応できる一定の拡張性はもっておきたいですよね。今後、ネットワーク環境やセキュリティがどう変わるか分かりませんが、分からないからこそ、未知の環境に対応できる拡張性あるシステムを構築していくことが重要だと思います」
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