目先のコストより大事なもの
~前回までのあらすじ~
筆者・中西聖氏は、自社のDXを進めるにあたり、社内のメインインフラといえるプラットフォームを既存ツールから新規ツールへと移行した。しかし、実際に新規ツールを導入してみると、これまでの既存ツールのほうが自社にとってはメリットが大きいことがわかり、結局既存ツールに戻すことに……。
翌日は定例のDX会議だった。僕はその場にサイトウ※1を呼び、方針転換を伝えることにした。「大変申し訳ないのですが」と前置きして、僕はサイトウにA社のシステムの開発を中止することを伝えた。また、既存のCRMツールを社内共通のプラットフォームとする方針を伝えて、開発を指示した。
※1 サイトウ:DXプロジェクトの専任リーダーとして筆者の会社に新しく採用された人物
当然、サイトウは理由を聞いた。着々と進めてきたCRMツールの導入が僕の一存で白紙になったことに戸惑いも感じている様子だった。
僕は、会社の今後の成長を支えられるシステムが必要であること、そのためにCRMツールの拡張性を重視したいことなどを伝えた。サイトウもその方針を理解したようだったが、既存のCRMツールをプラットフォームにすることへの不安もあった。
「既存のCRMツールは現場でのアップデートが難しく、そのせいで普及しませんでした。その問題はどう解決するのですか?」
サイトウの問いに対して、僕は現場ヒアリングによってUIとUXを高め、使ってもらえるようにするしかないと答えた。そう聞いて、サイトウは力なく頷いた。おそらくA社のシステム開発を中止する判断が覆らないと悟ったのだろう。理解はしたが納得はしていない。そんな感じの表情だった。
かなりの労力を費やしたサイトウとDXチームのメンバーにとって酷な判断であることは分かっている。しかし、ここは正念場だ。
A社のCRMツールを試験的に作ったことで、CRMツールが会社の成長のために非常に重要なツールであることが分かった。拡張性のあるCRMツールでなければ会社を成長させることが難しいことも学んだ。変革をもたらすシステムのあり方について、以前はモヤモヤと霧がかった状態だったが今は解像度が上がっている。
変革の可能性と、売上のアップサイドを狙えるチャンスが見えているなら、感情的には苦しかったが、論理的、合理的に考えて既存のCRMツールしかない。それが分かっているからこそ、僕は引くわけにいかず、サイトウには納得してもらうしかなかった。
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