(※写真はイメージです/PIXTA)

「子どもは帰省しても何もしてくれない」と嘆く人がいますが、子どもに言葉に出して頼んでいないために起きる認識の違いです。老人医療に詳しい精神科医の和田秀樹氏が著書『80歳の超え方 老いは怖くないが、面倒くさい』(廣済堂出版)で解説します。

高齢者専用の病院や施設に閉じ込めていた

■介護保険サービスが生まれた理由

 

さて、ひとり暮らしの高齢者が生きていくための要の制度として、介護保険サービスというものがあるのをご存じでしょうか。

 

すでにご存じの方も多いと思いますが、簡単に説明します。

 

介護保険制度は2000年にスタートしました。

 

高齢者は増え続けますが、介護する家族は、少子化のうえに親と別々に暮らす核家族化が進みました。その結果、高齢者介護は家族介護だけには頼れなくなっていました。

 

家族で介護ができない場合、かつては高齢者専用の病院や施設に閉じ込めていました。

 

そういう病院や施設での高齢者介護は、ケアの概念からは程遠いものでした。一日中ベッドの上にいて、ベッドをおりることがありません。食事も排泄もベッドの上でします。歩くことさえないのですから、すぐに衰弱していきます。はっきり言って、死ぬのを待つだけのような場所もありました。

 

老人介護のひどい実態を暴くルポルタージュ本が出たり、また、北欧などの高齢者福祉の先進国の情報が伝わるようになり、さすがにこのままではいけない、高齢者介護を充実させようという動きが出てきたのです。

 

介護保険制度がスタートするまでは、高齢者福祉に限らず、福祉というのは行政の措置事業でした。

 

「措置」というのは、行政の判断で必要なサービスが決められます。わかりやすく言えば「指示」になります。役所から「この施設に入りなさい」「ヘルパーを派遣します」と方針が伝えられます。その条件が低所得者や身寄りのない人の支援が主になるので、ほとんどのケースで家族が介護するのが当たり前という風潮になっていました。

 

介護保険制度になっていちばん変わったのは、措置ではなく、介護保険料という実質的な税金を払っている私たちがサービスを選べるようになったという点です。これを「措置から権利へ」と言います。

 

現在では、ほとんどの福祉施設も、ケアマネジャーがいる事業所も民間の施設です。ちなみに、これを運営する社会福祉協議会は、公的な施設と思われがちですが、行政とは切り離された民間機関です。

 

デイサービスなどの介護保険サービスを受けるには、施設や事業所と契約を結びますが、これがけっこう大変です。ケアマネジャーのいる居宅介護支援事業所との契約、デイサービスの施設との契約、ヘルパー派遣の事業所との契約など、実際のサービスが始まるまでの契約や、担当者会議で疲れたという話は本人や家族からよく聞かされることです。

 

和田 秀樹
和田秀樹こころと体のクリニック 院長

 

 

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本連載は和田秀樹氏の著書『80歳の超え方 老いは怖くないが、面倒くさい』(廣済堂出版)より一部を抜粋し、再編集したものです。

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