(※写真はイメージです/PIXTA)

新しい人間関係は高齢になっても生まれます。友達でなくてもいいのです。その場その場で知らない人とでも言葉を交わすことが大事です。老人医療に詳しい精神科医の和田秀樹氏が著書『80歳の超え方 老いは怖くないが、面倒くさい』(廣済堂出版)で解説します。

1人暮らしの孤独と同居の孤独は違う

■自分の芯を持ち、ひとりで生きる覚悟を持とう

 

高齢の女性が小さな子どもに声を掛けて、あやしたりしている光景を見ることがあります。昔は、おばあちゃんという人種は誰にでも声を掛ける、誰にでも世話焼きをしてしまう、という特性を持っていました。それくらい包容力があったのです。

 

高齢の男性も自分は自分、人は人という肝のすわった人が庶民にも偉い人にも多かったような気がします。

 

ところが、最近は、女性でも男性でも、高齢者に自信なく不安でオロオロする方が多いように感じます。

 

現代の人間の成長サイクルが遅れているといわれています。

 

発達心理学者エリクソンが提唱した青年期の課題は、アイデンティティの確立ですが、それは思春期を終えた20歳前後の話です。論語には「四十にして惑わず」という言葉があります。また、「五十にして天命を知る」というほどですから、昔の人は寿命が短いぶん成熟するのも早かったのです。

 

現代では、四十で迷わずどころか、中年になってもアイデンティティの確立ができていない人もいます。

 

しかし、私は六十でも七十でも迷っていいと思います。いかに生きるか迷う、じたばたするのは素敵なことだと考えます。それが人間だからです。でも、その中にも自分の芯なり肝を持っていてほしいのです。

 

芯とは「自分は自分、人は人」という自分を、まず信じる力です。

 

人間関係がいちばんストレスになると言いましたが、その原因は自分の芯がゆらいでいるからです。自分に自信がないために、人の言葉が頭に来たり落ち込んだりします。人や情報に踊らされたり、気持ちが右往左往したりします。

 

自分の芯、価値観がしっかりしていれば、「あの人はああ言うけれど、私は間違っていると思う」と冷静に考えられます。人は人、自分は自分と割り切る力もついてきます。

 

他人に対してだけでなく、家族との関係も見直してみてほしいと思います。

 

精神的に落ち込むストレスに、家族との会話があるといいます。どうも、親も子も子離れ親離れをしていないところがあるのではないでしょうか。

 

表面上はお互いに自立していても、心の中に依存の形が残されています。そのために、子どもならこのくらいのことをしてくれてもいいのではないか、という期待があります。

 

しかし、子どもにはそれが伝わらない。

 

血を分けた子どもといっても親のことはわかりません。親に対しての興味も親が元気なうちはないのが普通です。そこはしっかり覚えておきましょう。

 

もし、何かしてほしいときは、はっきり言葉にしましょう。

 

「今日は一緒に食事をして話を聞いてもらいたい。一時間でいいから」と言葉に出せば、「ああ、いいよ」と言うかもしれません。今日はダメだけど、今度の日曜日に食事しようと約束できるかもしれません。

 

家族でも友達でもわかってくれるはずという思い込みはダメです。たいていあなたのことをよくわかってはいません。あなたはひとりです。ひとりである自分だからこそ、人と言葉を持ってつき合っていきましょう。

 

老いていくことも生きていくことも本当に面倒なことです。でも、いつか「天命を知る」ためにも、老人としてのあなたの芯を図太くして生きていってほしいと思います。

 

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本連載は和田秀樹氏の著書『80歳の超え方 老いは怖くないが、面倒くさい』(廣済堂出版)より一部を抜粋し、再編集したものです。

80歳の超え方 老いは怖くないが、面倒くさい

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