老後の住まいとして老人ホームを検討する際、多くの方が「手厚い介護」や「充実した設備」に目を向けます。十分な資産を築き、万全の準備を整えて新生活をスタートさせたとしても、数年後に予期せぬ事態に見舞われるケースは少なくありません。ある夫婦のケースをみていきます。
ふざけるな!〈年金月28万円・貯金7,000万円の70代夫婦〉社宅生活30年、満を持して「高級老人ホーム」に入居も、5年後に知った「契約書の落とし穴」 (※写真はイメージです/PIXTA)

30年の社宅生活を経て選んだ、終の棲家での誤算

佐藤徹さん(75歳・仮名)と妻の美津子さん(72歳・仮名)は、5年前、都内にある介護付有料老人ホームに入居しました。徹さんは定年まで大手メーカーに勤務。現役時代の収入の大半を貯蓄に回し、準備した老後資金は7,000万円にのぼります。

 

「現役時代は会社が用意した築古の社宅に住み続けていました。お風呂の設備も古く、冬場は非常に寒かったのですが、老後の安心のためには仕方がないと夫婦で納得していたんです」と、徹さんは当時の生活を振り返ります。

 

夫婦が選んだ施設は、入居一時金として4,000万円を要する高級ホーム。月々の支払いも月28万円の年金の範囲内で収まる計算で、24時間の看護体制や充実した共用施設が決め手となりました。美津子さんも「ここなら将来、どちらかが介護状態になっても安心だと思いました」と話します。しかし、入居から5年が経過した頃、施設の運営状況に変化が生じました。

 

「経営母体が交代したことをきっかけに、ホームの雰囲気もサービスの質も変わりました。以前は専属の料理人が作っていた食事が、効率化の名目で既製品の配送に切り替わり、何よりスタッフの離職が相次いで、以前のような細やかな対応が受けられなくなったのです」

 

【具体的に生じたサービス低下の内容】

■食事の質の低下

以前は館内の厨房で出汁から取る手作りでしたが、完全なセンターキッチン方式に変更。真空パックされた既製品を湯煎して盛り付けるだけの献立になり、味付けが濃く、揚げ物ばかりになりました。

■スタッフの質の変化

ベテラン職員が待遇悪化を理由に相次いで退職。代わりに入った派遣スタッフは入居者の顔と名前も一致しておらず、言葉遣いも荒くなりました。

■清掃頻度の減少

毎日行われていた居室の清掃が「週2回」に変更。共有部分のトイレの掃除も行き届かなくなり、臭いが気になるようになりました。

■レクリエーションの廃止

外部講師を招いていた書道や音楽のサークルが、人件費削減を理由にすべて中止。代わりにホールでテレビを見せるだけの「待機時間」が増えました。

■強硬な値上げ通知

サービスは低下したにもかかわらず、物価高騰を理由に月額利用料が3万円引き上げられました。

 

納得のいかない徹さんは、別の施設への転居を検討し、契約書を読み返して愕然とします。

 

「5年経つと、入居一時金のほとんどが『償却』され、解約しても手元に残る返還金はごくわずかだとわかりました。施設側のサービス低下を理由にしても、返還金のルールは変わりません。今から別の施設を探すにも、残った資金では同等の環境を選ぶことは不可能です。思わず『ふざけるな!』と声を荒げてしまいました。しっかりと契約書を読んでいなかった私たちが悪いのですが……」と、徹さんは言葉を濁しました。