(※写真はイメージです/PIXTA)

誰もがいつかは高齢者になります。高齢者制度を非難して、高齢者福祉を貧しくしていくことは、自分が高齢者になったときに困るでしょう。老人医療に詳しい精神科医の和田秀樹氏が著書『80歳の超え方 老いは怖くないが、面倒くさい』(廣済堂出版)で解説します。

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なぜ歩道にベンチを置かないのか?

■高齢者が暮らしやすい町は、誰もが暮らしやすい町

 

自治体で介護予防に力をいれていくために、運動する場や介護ボランティアの養成等のいろいろな取り組みが行われています。

 

高齢者の居場所づくり、それはそれでいいことです。

 

ただ、どうしても週一回、月一回ぐらいですし、コロナ感染が拡大しているときは閉じている居場所も多かったのではないでしょうか。

 

デイサービス、自宅、病院という「点」を充実するのもいいのですが、地域という「面」も充実してほしいと私は考えています。

 

たとえば、なぜ歩道にベンチを置かないのでしょうか。日本の歩道は狭いです。そのうえ自転車も車道が危ないので歩道を走っています。ベンチは置けないという実情があるとしても、疲れやすい高齢者は安心して町を歩くことができません。商業施設の外にも中にもベンチやテーブルを置いてほしいのです。

 

都会も地方も、子どもや高齢者が憩える空間が圧倒的に不足しています。カフェだけはたくさんできますが、無料の場所が少ないのです。

 

駅のまわりが歩道橋だらけで、エレベーターがどこにあるかわかりづらいことも多いようです。そもそも歩道橋にエレベーターやエスカレーターがついていることはほとんどありません。高齢者が安心して道も渡れないことは珍しくないのです。

 

高齢になると、排尿の回数が多くなります。特に、利尿剤を飲んでいると、すぐにトイレへ行きたくなります。そういうとき、コンビニは頼りになりますが、きれいな公共のトイレも増やしてほしいと思います。実は私も心不全の診断を受けて以来、利尿剤を飲んでいるのですが、コロナ感染予防でコンビニのトイレが使えなくなり、トイレ探しに困るという状況が続いています。

 

ユニバーサルデザインという言葉が流行った時期がありました。その結果、子どもから高齢者、障害者の誰もが町へ出て、安全で安心な町づくりをしようという機運が高まりましたが、現在は停滞しているように見えます。

 

誰もが気軽に町に出られて楽しめる環境があれば、高齢になっても週に一回、介護予防の教室へ行くだけではなく、いつでも公園や図書館や花壇を見るために町歩きを楽しめるようになります。そうやって、出歩ける地域全体を広げていくケアのデザインもあったらいいのにと考えます。

 

その一方で、いまの段階でも「高齢者に税金を使い過ぎる」という批判があります。高齢者の人数が多いですし、年金に介護に病院にと、若い人に比べればお金も人の手もかかります。

 

しかし、それはある程度、仕方がないことだと思います。

 

誰もがいつかは高齢者になります。

 

高齢者制度を非難して、高齢者福祉を貧しくしていくことは、自分が高齢者になったときに困るでしょう。

 

世代間の敵対をつくるのではなく、幼児から高齢者までが住みやすい地域をつくっていく、包括的なケアシステムを構築していってほしいとつくづく思います。そのためにも、老いたら黙ってお上に従うのではなく、どんどん意見を言っていくべきです。

 

仕事をリタイアしたばかりの60代から70代にかけての人たちは、その意味でも、上下の年代層の橋渡しができる世代になってきます。寒々とした地域をつくらないために、定年後の方たちが自分ごとだけではなく動いていけたら、自分も地域も元気になっていくでしょう。

 

老いの入り口にいる世代には、大切な役割があるような気がします。

 

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本連載は和田秀樹氏の著書『80歳の超え方 老いは怖くないが、面倒くさい』(廣済堂出版)より一部を抜粋し、再編集したものです。

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