(※写真はイメージです/PIXTA)

「老いると子どもに返る」といわれますが、素直に子どもに返れる人はそんなに多くありません。経験やプライド、権威、固く凝り固まった脳、不安や心配などが邪魔をするからです。老人医療に詳しい精神科医の和田秀樹氏が著書『80歳の超え方 老いは怖くないが、面倒くさい』(廣済堂出版)で解説します。

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映画『午後の遺言状』が語りかけること

■どんな状況になっても、死は急がなくていい

 

先日、新藤兼人監督の映画『午後の遺言状』を見ました。

 

主演は新藤監督の妻、乙羽信子さんと、杉村春子さんです。現役の役者として活躍する森本蓉子(杉村春子)が山の別荘に避暑に来ます。別荘を管理するのは、近くに住む農家の豊子(乙羽信子)です。

 

このふたりにもドラマがあるのですが、この映画に味を出しているのは、豊子の若い時代の同僚の登美枝とその夫です。この牛国登美枝役は朝霧鏡子さん、夫の牛国藤八郎役は観世栄夫さんです。

 

登美枝は能役者に惚れられて結婚し、役者はやめて主婦になりました。

 

蓉子の別荘に登美枝と夫が訪ねてきます。登美枝は認知症になっていたようです。夫は介護するために仕事もやめたそうです。登美枝が「蓉子ちゃんに会いたい」と言うので、夫が連れてきました。

 

登美枝は夫に介護はされていますが、歩けますし、ひとりで美味しそうにご飯を食べます。朝ご飯を食べると、いつもの習慣で夫の謡の稽古に扇子を持ってダメ出しをします。そういう習慣的なことはできますが、現在の会話に参加はできません。

 

この認知症の登美枝さんがユーモラスでとてもいいのです。夫は献身的にケアをします。

 

問題は、おふたりには子どももいないし、お金も底をついたことです。最後の旅の途中に、いまは大女優の友人の顔を見に来たのです。登美枝には青春のいちばん楽しい時期だったのでしょう。登美枝と夫の最後は悲しいものになっています。

 

ときどき、介護殺人や介護心中がニュースになります。こういうニュースを聞くと介護は大変なものだ、子どもに介護をさせて迷惑をかけたくないと思う方もいると思います。人に迷惑をかけたくない、と死を選ぶ方もいます。

 

登美枝と夫の場合も、生活保護を申請すれば生活ができましたし、現在なら生活保護で介護保険のサービスも受けられます。登美枝が無邪気に笑って、毎日の生活習慣を続けられる手立てはいっぱいあるでしょう。

 

みなさんも身近な友人や知人に困っている人がいたら、支援を受けることは恥ずかしくないことだと伝えてほしいです。

 

「あの人は、人に迷惑をかけないように死んだ。立派だ」という言葉を聞いたことがありますが、それは立派でもなんでもありません。その地域や人間の敗北だと思います。自死を選んだ方たちも少しの支援で生活できたかもしれません。

 

お金があるなしにかかわらず、誰もが笑って暮らせる世の中にしていかないといけません。

 

次ページ普通の暮らしの中に充実した生活がある

本連載は和田秀樹氏の著書『80歳の超え方 老いは怖くないが、面倒くさい』(廣済堂出版)より一部を抜粋し、再編集したものです。

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