「八重入力」が起こってしまったワケ
八重入力は次のようなプロセスで生み出されていた。
まず顧客からの問い合わせがあった時に、問い合わせを受けた営業が見込み客として基本情報を入力する。成約に至ると正式な書類を作成する必要があるため、そこで不足している情報を聞き追加情報を入力する。この契約書は出力して書棚に収納されるのだが、契約を管理する部門でもこの顧客の情報が必要になる。そのためキャビネットから書類を出し、専用の書式に入力する。
契約内容によって賃貸管理、建物管理の部門もそれぞれ顧客情報が必要となるため、そこで入力が発生する。さらに経理も顧客情報が必要なので、そこでもまた入力する。
こうしてまとまったデータは、出力して書類として保管する。どうりで日々大量の紙を使うはずである。まさに紙の呪縛だ。
また、営業、契約管理、経理などそれぞれの部門が把握している情報は不完全であるため分かっている情報は入力し、分からない項目は空欄となり、歯抜け状態で管理されることになる。
僕が見た「22時の光景」はまさにこの状況だ。必要な情報が空欄となっているため、その情報を他部門が作成した書類で確認し、入力していたのだ。
このような修正を含めて最も多いケースが八重入力で、それに近い回数の多重入力はほかにも少なくないということだった。
根本的な原因はなにか
根本的な原因は何か。各部門で共通のデータベースがないことが原因なら、どの部門のどの端末からもアクセスできるデータの一元化が解決策になると思った。しかし、実際にはもっと複雑であるという。
メンバーによれば、データベースがあれば入力を簡素化できるが、各部門が使っているソフトが違うため互換性がないという。そこをつながない限り、紙で出力して書類を見ながら再入力するという手順は減らせない。
また、部門内でもデータの入力方法が違っている。例えば、賃貸部門は入居者に対して2年ごとの更新確認を行う。賃貸契約を解約するか更新するかを聞いて、顧客情報を最新の情報にする。
この業務は顧客情報をデータ化しておくことにより、いちいち書類を取るためにキャビネットを開け、書類を探し出す手間と時間が省ける。
販売部門や賃貸部門の営業担当者が同じCRMツールに顧客情報を入力すれば、少なくとも部内での情報共有はやりやすくなり、部門をまたぐ連携もできるようになる。そのためのCRMツールもすでに導入済みだ。
しかし、社員のなかには「原本を確認したい」「紙のほうが慣れている」と感じる人がいて、彼らはCRMツールを使っていない。CRMツールに入力している人がいれば自分のPCのエクセルに入力している人もいるため、データが共有できないというわけだった。
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