(※写真はイメージです/PIXTA)

中国の脅威膨張の源泉は中国企業のドル獲得にあるとみなし、中国の軍事関連企業への株式投資禁止やアメリカ株式市場上場の中国企業規制を矢継ぎ早に繰り出しました。米中は貿易戦争から金融戦争へのシフトしています。日本経済の分岐点に幾度も立ち会った経済記者が著書『「経済成長」とは何か?日本人の給料が25年上がらない理由』(ワニブックスPLUS新書)で解説します。

共産党独裁の強権発動で習政権は墓穴を掘るか

習政権のIPО規制は国内にも及びます。

 

8月26日付『日経新聞』朝刊は〈中国で新規株式公開(IPО)を目指す40社の上場手続きが止まった。株式市場の不正一掃を目指す中国政府が、証券会社や法律事務所などを相次いで調査しているためだ。習近平指導部は貧富の格差縮小を目指しており、資本市場で不正に富を蓄積する動きを厳しくけん制する。〉と報じました。

 

インサイダー取引などの不正な売買や粉飾決算などがあとを絶たないことに、一般投資家の不満が高まっていたため、証券監督管理委員会(証監会)が不正行為の疑いのある証券会社や投資家、法律事務所や監査法人などを相次ぎ調査しているのです。証監会の調査を受けた法律事務所や資産評価会社、証券会社、会計事務所が関わっていた40社のIPО手続きを問題にしたということです。

 

確かに、習政権は格差縮小、汚職腐敗一掃の一環で株式をめぐる不正行為の摘発に乗り出しているに違いありません。でも、それは中国の国内株式市場が中国経済にとって、かつてなく重要度が増していることも背景にあるはずです。

 

もう何度も繰り返していますが、中国の通貨・金融システムはアメリカドル本位制です。人民元についてはアメリカドルの覇権を脅かすといった見方が日本のメディアや識者には多いのですが、依然として習政権はドル準備なくしては人民元金融を拡大できないでいます。新型コロナ禍の重圧を受ける経済のてこ入れのために、人民元資金供給を増やそうにも、外貨流入が伸びなければどうにもならないのです。

 

海外の対中投資と中国企業の国内外でのIPОによる資金調達合計の推移であるドルの流入源の主力は、新型コロナ禍の2020年以降、貿易黒字から外国による対中投資に移りました。とくに株式を中心とする証券投資が柱になっています。

 

2021年3月末の海外からの対中証券投資残高は2兆ドルあまりで、このうち株式は1.3兆ドル、前年同期比ではそれぞれ6925億ドル、4477億ドルの増加です。直接投資残高は3.2兆ドル、前年比は4619億ドル増で、株式投資が直接投資並みの比重を占めるようになっているのです。

 

中国企業IPОの主舞台は、国内の上海、深圳市場です。中国金融データ会社WINDによれば、2020年は国内市場が全IPOの72%を占めます。香港が21%、アメリカ市場は7%です。と言っても、ドル資金を調達できるのは主としてアメリカ市場、そして習政権が政治的にも完全支配した国際金融センター・香港です。

 

世界の主要証券市場別IPO資金調達額の規模を見ると、2020年には上海と香港がアメリカのナスダックを抜き、深圳と合わせると、ニューヨーク市場を含むアメリカ市場を圧倒しています。

 

習政権としてはIPОを軸にしたドル資金調達源を、アメリカ市場依存から脱却できる手応えを感じているでしょう。それでも党幹部などの利権にまみれたインサイダー取引が横行する不透明さを放置していれば、海外の投資家からはそっぽを向かれます。そうなると、米英の金融資本も対中株式投資仲介に及び腰になります。

 

強権が支配する香港や上海、深圳株式市場を統治することで、ドル資金を確保する習政権のシナリオはこのまま功を奏するのでしょうか。そうは問屋が卸さないのが国際金融です。

 

アメリカの上場中国企業規制をきっかけに、2021年3月から始まったアメリカ市場の中国株下落は7月の滴滴ショックによって底が見えないほどです。アメリカ市場での中国株暴落は香港市場に波及しつつあり、上海市場もやや引きずられそうです。

 

世界の投資家には、米中それぞれのアメリカ上場中国株規制策に加えて、習政権によるネット企業を中心にした中国企業締めつけ強化が、党による反資本主義的な統制強化であるとの警戒感も出ています。

 

2020年11月、硬直的な中国の金融制度を批判したアリババの創業者、ジャック・マーを抑え込んだり、アリババ・グループのネット金融サービス大手のアントの新規上場を突如無期限延期させたりしたのも、中国の経済活力を殺ぐと国際的には見られています。

 

要するに、中国の通貨金融制度は資本主義のエンジンである株式市場に依拠しているくせに、それを共産党独裁の強権が統制しているという矛盾をつかれているのですね。

 

対照的に、ダウ工業平均株価は滴滴ショックも受けずに堅調に推移しています。世界の投資家は香港や上海市場上場分を含めた中国株を売って、ニューヨーク市場やナスダックの非中国企業株を買う傾向が見られるありさまです。

 

英『フィナンシャル・タイムズ』紙は、滴滴ショック勃発を受けた7月7日付電子版で、〈最大の敗者はナスダックとニューヨーク証券取引所である可能性が高い。〉と報じましたが、実際は習政権が自ら墓穴を掘ることにもなりかねないのです。

 

田村 秀男
産経新聞特別記者、編集委員兼論説委員

 

 

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本連載は田村秀男氏の著書『「経済成長」とは何か?日本人の給料が25年上がらない理由』(ワニブックスPLUS新書)の一部を抜粋し、再編集したものです。

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