プラザ合意の会場となった米ニューヨークのプラザホテル。(※写真はイメージです/PIXTA)

プラザ合意の影響で急速に円高が進行し、円高不況になります。日銀の低金利政策で日本はバブル経済が生じます。バブルはやがて崩壊し、日本は際限のないデフレ不況で低迷し続けています。日本経済の分岐点に幾度も立ち会った経済記者が著書『「経済成長」とは何か?日本人の給料が25年上がらない理由』(ワニブックスPLUS新書)で解説します。

なぜ2度目の消費増税を断行したのか

■国家の指導者たるもの

 

今年(2021年)春、安倍晋三元総理を座長とする、ポストコロナ経済を考える自民党議連の勉強会で講演しました。安倍さんが座長だからか、すぐに議員が50人くらい集まり、マスコミも結構な数来ていて、安倍さんの影響力はまったく衰えていないなと思ったものです。

 

会合では、2021年9月の自民党総裁選に立候補した高市早苗さんが、最前列で熱心にメモをとっておられました。同じく総裁候補だった岸田文雄総理もメンバーでしたが、そのときは地元の広島で衆院補選の選挙活動のために出られませんでした。

 

総裁選では、高市さんがアベノミクスを継承した「サナエノミクス」を掲げ、プライマリー・バランス黒字化目標凍結を打ち出しました。均衡財政主義を伝統的に掲げる宏池会出身の岸田さんも大規模な財政出動を提言し、新自由主義からの決別を宣言しました。コロナ禍を経て財政に対する考え方がようやくまともになってきたのですが、まだまだ安心できません。

 

安倍さんに直に会ったのは約10年ぶりでしたが、私の記事はずっと読んでくれていたみたいで、勉強会で「田村記者から筆誅を加えられましたよ」と発言していました。

 

前にも触れましたが、私は“書くべきこと”は書きます。そのため全体としてはアベノミクスをサポートしてきましたが、最も激しく安倍内閣の経済政策を批判したのも私です。即ち消費税の増税です。でも安倍さんは消費税の増税は危険を伴うと危惧していたのです。

 

それは恐らく安倍内閣1回目の消費税増税のときの経験からだと思います。1回目の増税のときも安倍さんには経済への悪影響がないのか、不安があったのでしょう。しかし日銀や財務省に「経済への悪影響については大丈夫です。むしろこれで財政健全化が一挙に進みます」と言い含められ、納得した。しかも当時、アベノミクスのスタートが順調だったこともあり、消費税の増税に踏み切ってしまったのです。

 

そうしたら、アベノミクス効果で折角内需が上がりはじめていたのに、再びデフレ圧力が高まってしまった。これには安倍さんもすごい衝撃を受けて、「なんだ、噓ばっかり俺に言いやがって」となったようです。

 

その経験から2度目の消費税増税は2度延期したのです。ほんとうは3党合意で1回目(税率を5%から8%に上げた)から1年半後に上げるとしていたわけです。

 

しかし結局、2019年10月から2度目の増税に踏み切りました。そのときも私は、いろいろなところで相当激しく、絶対に増税はダメだと書きました。

 

安倍さんは消費税の増税がアベノミクスの効果をいかに毀損するか、自問自答していたのでしょう。でも抗し切れなかった。

 

政治家稼業というのは複雑な仕事だと思います。すべてのバランスで成り立つ面がありますから。しかもエコノミストではないので、経済のことだけ考えていればいいというわけにもいきません。票のことも考えないといけません。さらに党内の力学も公明党とのバランスも考えないといけない。野党との駆け引きもあります。

 

そういう局面を総合すると、2回目の消費税増税は大丈夫だろうと判断したのでしょう。

 

次ページ分岐点になった1985年の「プラザ合意」

本連載は田村秀男氏の著書『「経済成長」とは何か?日本人の給料が25年上がらない理由』(ワニブックスPLUS新書)の一部を抜粋し、再編集したものです。

「経済成長」とは何か?日本人の給料が25年上がらない理由

「経済成長」とは何か?日本人の給料が25年上がらない理由

田村 秀男

ワニブックスPLUS新書

給料が増えないのも、「安いニッポン」に成り下がったのも、すべて経済成長を軽視したことが原因です。 物価が上がらない、そして給料も上がらないことにすっかり慣れきってしまった日本人。ところが、世界中の指導者が第一の…

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