(※写真はイメージです/PIXTA)

中国の脅威膨張の源泉は中国企業のドル獲得にあるとみなし、中国の軍事関連企業への株式投資禁止やアメリカ株式市場上場の中国企業規制を矢継ぎ早に繰り出しました。米中は貿易戦争から金融戦争へのシフトしています。日本経済の分岐点に幾度も立ち会った経済記者が著書『「経済成長」とは何か?日本人の給料が25年上がらない理由』(ワニブックスPLUS新書)で解説します。

中国関連企業のニューヨーク上場問題

■米中は貿易戦争から金融戦争へ

 

ここまで中国問題は、じつは金融が鍵になっていることを述べましたが、アメリカではそれに気付いたトランプ政権が2018年夏に対中貿易戦争を仕掛けたあと、次第に金融面での牽制へと対中強硬策をシフトさせました。

 

アメリカはトランプ前政権末期、中国の脅威膨張の源泉は中国企業のドル獲得にあるとみなし、中国の軍事関連企業への株式投資禁止やアメリカ株式市場上場の中国企業規制を矢継ぎ早に繰り出しました。バイデン政権はとりあえずこの路線を継承しています。

 

これに対し、中国の習近平党書記・国家主席はアメリカ市場上場の情報技術(IT)ネット大手を締めつけて、アメリカ市場を動揺させると同時に、アメリカ市場でのIPО制限で対抗するという奇策に打って出ました。これは自らアメリカ資本市場からのドル資金確保の道を断つことになりかねないのですが、アメリカ市場に代わるドル調達の布石は打っています。

 

2020年6月末施行の「香港国家安全維持法」によって、中国は国際金融センター・香港を完全掌握し、上海市場と一体化させ、アメリカなど西側金融資本大手を取り込みました。高い収益機会を求めるアメリカ金融大手が世界に溢れる余剰資金を吸い上げ、中国に注ぎ込むとの算段です。

 

一方、アメリカ株式市場での上場中国企業に対するワシントンの規制や制限はふた通りあります。まずは軍事・安全保障関連企業の狙い撃ちです。2020年11月12日、トランプ大統領が署名した「共産主義中国の軍事企業に資金を供給することになる証券投資の脅威に対応するための大統領令」がそうです。

 

国防長官が「国防承認法」に基づいて「共産主義中国の軍事企業」であると認定した企業の発行する上場証券やその関連デリバティブ商品については、2021年1月11日以降、アメリカ国民による取引や保有を禁じたのです。

 

大統領令にしたがって2020年12月31日、ニューヨーク証券取引所は中国電信(チャイナ・テレコム)、中国移動(チャイナ・モバイル)、中国聯通(チャイナ・ユニコム)香港、三社の上場廃止手続きを開始すると発表しました。

 

2021年1月に就任したバイデン大統領は、6月3日にトランプ大統領令を基本的に継承する「防衛および監視技術分野に関連する中国企業に対する米国人による証券投資を禁じる大統領令」に署名し、投資禁止対象を軍事関連から監視技術企業に広げました。この結果、8月2日以降、アメリカ人投資家は指定企業への証券類の投資が禁止され、すでに保有している証券などは2022年6月3日までに売却を求められます。

 

もうひとつが、投資家保護を名目とした規制です。

 

2020年12月18日、トランプ大統領は上下両院が可決した「外国企業説明責任法」に署名しました。同法は、アメリカの株式市場に上場する外国企業に対し、外国政府の支配・管理下にないことの立証義務を課すとともに、アメリカ公開会社会計監督委員会(PCAOB)が監査を実施できない状態が3年連続で続いた外国企業の証券取引を禁じるものです。

 

中国を直接名指しにしてはいませんが、上場中国企業は国有企業ではなく「民営」と称しても、ほぼすべての企業内に共産党委員会が設置され、委員会のトップである書記を通じて絶えず党中央に監視されています。党は政府を支配しているのだから、政府による支配、管理という定義に中国企業はあてはまります。

 

この規定は、上場企業の情報公開や透明性を求めるアメリカ株式市場の原則からして当然のことですが、お粗末な中国企業の情報開示に対するアメリカ証券取引委員会(SEC)のチェックは甘く、以前から投資家の利益が損なわれるとの批判が渦巻いていました。

 

外国企業説明責任法は習政権に衝撃を与えました。アメリカに株式上場する企業は党・政府との関わりを人脈、資金、さらに企業が蓄積している個人情報などのデータについて、アメリカ当局に提出を求められる可能性があるのです。アメリカ上場ネット企業を経由してビッグデータがアメリカに筒抜けになれば、国家安全保障が脅かされるのみならず、アメリカ上場中国企業に利権を持つ党要人たちも秘密情報を把握される恐れがあります。

 

習政権はまず対米牽制に出ました。〈中国国務院(行政府)は証券監督管理委員会に対し、新たな証券取引所を設立し香港や米国などに上場する中国企業を誘致する証券取引所構想について調査を指示した。〉(2021年3月31日付ロイター電)。

 

要は、アメリカ金融資本の高収益の源泉になっている、香港やニューヨーク証券取引所、ナスダックなどに上場している中国企業を引き揚げさせて中国本土市場に上場させるぞ、そうすると打撃を被るのは世界から余剰資金を引きつけて繁栄しているアメリカ金融界だぞ、という“脅し”の意味があるのでしょう。

 

実際に、2021年8月20日には、アメリカ上場廃止に追い込まれた中国電信が上海市場に新規上場しました。同じくアメリカ市場から締め出された中国移動も上海上場を計画中です。

 

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本連載は田村秀男氏の著書『「経済成長」とは何か?日本人の給料が25年上がらない理由』(ワニブックスPLUS新書)の一部を抜粋し、再編集したものです。

「経済成長」とは何か?日本人の給料が25年上がらない理由

「経済成長」とは何か?日本人の給料が25年上がらない理由

田村 秀男

ワニブックスPLUS新書

給料が増えないのも、「安いニッポン」に成り下がったのも、すべて経済成長を軽視したことが原因です。 物価が上がらない、そして給料も上がらないことにすっかり慣れきってしまった日本人。ところが、世界中の指導者が第一の…

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