中国の宇宙開発能力は本物なのか?
■中国にとって宇宙戦は不可欠な戦い
現代戦における中国の最優先事項は、「情報領域」における優越を獲得することであり、宇宙、サイバー空間、電磁波領域などを組み合わせて支配権を確保することである。
中国は、相手の人工衛星などを破壊またはその機能発揮を妨害し、自らは宇宙を完全に利用する能力を確保しようとしている。中国が米国と同等に戦う唯一の方法は、米国の人工衛星などの宇宙資産を危険に晒すことだと確信している。
中国の宇宙開発と宇宙戦で中核となる組織は解放軍の戦略支援部隊と、その指揮下にある宇宙システム部だ。戦略支援部隊の新編(2015年末)で実現した情報戦、宇宙戦、サイバー戦、電磁波戦の統合は、これらの領域における解放軍の能力を大幅に改善することになった。
中国軍事科学アカデミーの『戦略学』(2013年版)によると、宇宙システムは〈攻撃が容易で防御が困難〉なものであり、〈敵の宇宙システムの重要な結節点(ノード)〉はとくに価値のある攻撃目標になる。また、指揮統制システムは〈重要な〉攻撃目標であり、宇宙情報システムは〈最重要なターゲット〉であると主張している。
『戦略学』は、宇宙での抑止の目標を達成するためには、〈宇宙能力を開発し、非対称の運用姿勢を示し、必要に応じて宇宙の先制攻撃を実施することが必要〉だと主張している。 つまり、米中の宇宙戦がエスカレーションする危険性がここにある。
中国は、宇宙とサイバー空間を「支配するドメイン、敵を拒否するドメイン」とみなし、商業的な民間の資産を含む宇宙ベースの資産に対するサイバー攻撃や電磁波攻撃を平素からおこなっているが、とくに紛争初期における攻撃を重視している。
■中国の宇宙開発能力は米国の能力に急速に近づいている
中国の宇宙探査はNASAのものと似ていて、NASAの宇宙開発を参考にしている。しかし、中国の宇宙開発は軍主導でおこなわれている点が米国とは違う。中国国家航天局(米国のNASAに相当)では多くの科学者や研究者が働いているが、研究者たちを監督しているのは解放軍だ。
「天問1号」を火星へ送りだすロケットを組み立てたラインでは、軍事用のブースターも生産している。
中国は、民間主導の外国企業が対応できない積極的な国家支援による資金調達を武器に、商用打ち上げおよび衛星セクターで主導権を確立しようとしている。中国はすでに国際市場で、米国とその他の国の打ち上げおよび衛星提供者から仕事を奪うことに成功しており、これらの国々の宇宙産業基盤を空洞化させる可能性がある。
中国は、月探査や火星探査でも米国に追いつこうとしている。2019年、「嫦娥4号」によるミッションは、着陸機を初めて月の裏側へ送りこみ、その際に配備された探査機は2年以上経ってもまだ月面を動き回っている。さらに中国は、月面基地の建設すら計画している。
中国は2020年7月23日、ロケット「長征5号」により火星探査機「天問1号」の打ち上げに成功した。「天問1号」による火星探査は、中国初のミッションであり、発射能力をはじめとして、米国との技術差が急速に縮小していることを示している。
さらに中国国家航天局は同年6月、米国が運用しているGPSネットワークの中国版となる「北斗衛星導航系統」を完成させている。
中国はまた、固有の宇宙ステーションの建設を開始している。2021年4月29日、中国独自の宇宙ステーション「天宮」の中核のモジュール である「天和 」が、海南島の文昌衛星発射場から「長征五号B遥二」ロケットにより打ち上げられた。「天和」は予定軌道に入り、発射は成功した。
「天和」打ち上げに続いて、5月には宇宙ステーションへの物資補給、6月と10月には有人宇宙飛行ミッションがおこなわれた。宇宙ステーション「天宮」は、「天和」とほかのふたつの実験モジュールから構成され、2022年末までに完成予定で、10年間から15年間の運用を想定している。
渡部 悦和
前・富士通システム統合研究所安全保障研究所長
元ハーバード大学アジアセンター・シニアフェロー
元陸上自衛隊東部方面総監
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