中国に「宇宙の平和利用」は通用しない
2015年、私は米国の有名なシンクタンク「戦略予算評価センター(CSBA)」を訪問し、日本の作戦構想である「南西諸島の防衛」と米国の作戦構想をいかに連携させるかについて議論した。その際に、CSBAの研究者が中国やロシアの攻撃によって米国の人工衛星が大きな被害を受けることを非常に恐れていたことは印象的であった。
CSBAは対策案として、①衛星インフラの強靱化―通信妨害やレーザー攻撃などに耐えられるものにすること、②攻撃された衛星を代替するための小型衛星を迅速に打ち上げること、③無人航空機で衛星を代替すること、④報復手段の保持により抑止することなどを挙げていた。
その後の米国の動きをみていると、CSBAの説明通りになっている。一方、我が国は中国などの宇宙戦に対する危機感が薄い。この瞬間にも日本の人工衛星が目にみえない「静かな攻撃」を受けている可能性がある。
また、宇宙にはスペースデブリ(宇宙ゴミ)という深刻な問題がある。スペースデブリは、軌道上にある不要な人工物体のことで、使用済みや故障した人工衛星やロケット、爆発・衝突で発生した破片などだ。その数は、10㎝以上の物体で約2万個、1㎝以上は50万~70万個、1㎜以上は1億個を超える。
デブリの増加は、人工衛星と衝突する可能性を高めており、デブリの監視や除去はすべての国にとって官民を挙げて取り組まなければいけない共通の課題である。デブリ処理の分野において、日本には「アストロスケール」のような宇宙ベンチャー企業が存在し、今後の活躍が期待されている。
■「宇宙の平和利用」が通用しない「宇宙は戦場」という現実
宇宙はいまや、現代戦においてもっとも重要なドメイン(戦いの領域)のひとつであり、大国が制宙権(宇宙の支配権)を確保しようとして争う舞台となっている。ただ、あらゆる宇宙技術は「軍民両用」であり、宇宙に関する能力は、軍事のみならず民間のビジネスに不可欠な支援を提供している。
宇宙ビジネスにおける技術およびコスト面での参入障壁は低下し、多くの国々や企業が人工衛星の建造、ロケット発射、宇宙探査、有人宇宙飛行などに参加できるようになった。この進歩は新たなビジネスチャンスを生み出しているが、同時にリスクも生じている。なぜなら一部の国家、とくに中国とロシアは、宇宙空間において米国に対抗し、他国の宇宙利用を脅かす能力を向上させているからだ。
世界中で報道されている宇宙に関係する記事を分析すると、宇宙戦は戦時だけではなく平時においても実施されているという結論になる。日本の衛星も平素から通信妨害やレーザーによる妨害などを受けていても不思議ではない。世界の主要国が官民挙げて宇宙開発を推進するなかで、宇宙を戦場とみなす国々の悪意ある振る舞いにいかに対処するかは喫緊の課題になっている。
最新の例では、ロシアが2021年11月15日、ミサイルにより人工衛星を破壊する実験をおこなった結果、1500個以上のデブリが発生した。この事態を受け、国際宇宙ステーションの宇宙飛行士が一時避難を余儀なくされた。
米国の国防情報局(DIA)が公開した文書によると、安全保障における宇宙の重要性について以下のようにまとめているが、宇宙における米中覇権争いは日本人が考える以上に激しいものになっている。
・中国の軍事ドクトリン(軍事教義)は、宇宙を現代戦にとって不可欠な空間と認識し、その対宇宙能力(相手の衛星等を攻撃する能力)を、米国とその同盟国の軍事能力を低下させる切り札だと考えている。
・米中は、宇宙ベースの情報収集、監視、偵察などの重要な宇宙サービスを開発してきた。また、宇宙と地球を往復するシャトル機や衛星航法システム(例えばGPS)などの既存システムの改良もおこなっている。これらの能力は、軍隊を指揮・統制する能力を提供するとともに、状況認識能力を高め、外国の軍隊を監視・追跡することを可能にしている。
・中国は、通信妨害能力(高周波ジャマーなど)、サイバー戦能力、指向性エネルギー兵器―レーザー、高出力マイクロ波兵器などのエネルギーを目標に照射して機能を低下させたり破壊したりする兵器、同一軌道上で相手の衛星を攻撃する能力―体当たり破壊兵器、ロボットアーム、地上配備の対衛星ミサイルなどを開発している(図参照)。
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