(※写真はイメージです/PIXTA)

中国は、米国に対抗できる「宇宙強国」を目指し、軍主導で宇宙開発を進めてきた。これらには、中国やロシアの宇宙軍拡に備える狙いがある。元・陸上自衛隊東部方面総監の渡部悦和氏が著書『日本はすでに戦時下にある すべての領域が戦場になる「全領域戦」のリアル』(ワニプラス)で解説します。

宇宙軍拡をめぐる中国の野望と脅威

■中国は米国を凌駕する宇宙強国を目指す

 

毛沢東は1950年代、「両弾一星」プロジェクトに着手した。両弾とは原子爆弾と大陸間弾道ミサイルのことであり、一星とは人工衛星を意味する。

 

中国は、宇宙で米国を駆逐するという野心的な計画の一環として、米国とその同盟国の衛星を標的とする一連の攻撃能力を備えた兵器の開発・配備を進めている。

 

米国家情報長官の報告書「米情報機関の年次脅威評価」は、中国を米国の技術競争力に対する「最大の脅威」だと結論付けている。同報告書によると、〈解放軍は、宇宙における米国の能力と同等かそれ以上の能力を獲得し、米国が宇宙のリーダーシップから得てきた軍事的、経済的、威信的利益を奪い取ることを計画しており、これらの宇宙における攻撃作戦は、解放軍による潜在的な軍事作戦として不可欠なものとなっている。〉と分析している。

 

同報告書によると、中国政府は米国の軍事および経済における宇宙への依存を、脆弱性とみなしており、すでに低軌道衛星の破壊を目的とした地上配備の対衛星ミサイルと対衛星レーザーを保有しているという。また、中国とロシアは宇宙における軍事分野の訓練を継続しており、両国とも新たな破壊的および非破壊的衛星攻撃兵器を配備しているという。

 

例えば、中国の戦略支援部隊は、2019年に低軌道衛星を標的とした地上発射の対衛星ミサイルの訓練を開始した。そして、解放軍はこれらの兵器の使用に関するドクトリンも開発しており、紛争の初期に米国の宇宙システムに対する攻撃をおこなう可能性がある。

 

米国の情報機関は、中国が2022年から2024年の間に低軌道で運用可能な宇宙ステーションを打ち上げ、そこにロボット研究ステーションを設置し、その後「断続的に有人飛行するための」基地建設を目的とした月面探査ミッションを継続すると予測している。

 

アブリル・ヘインズ米国家情報長官は、「中国は、宇宙での主導権を達成することに焦点をあてており、我々の主導権に対抗するために、この分野で様々な努力をしてきたことはまちがいない」と議会で証言している。

 

なお、中国が米国の最先端の宇宙技術を窃取することを防止するため、1990年代半ばにNASAと米国の宇宙関連企業は事実上、中国と仕事をすることを禁じられている。


 
■中国の宇宙開発体制全般

 

中国の宇宙開発体制は、共産党の指導のもとに、軍事、政治、国防産業、商業の各部門からなる複雑な構造になっている。解放軍は歴史的に中国の宇宙計画を管理してきており、宇宙を舞台としたISR(情報、監視、偵察)、衛星通信、衛星航法、有人宇宙飛行、無人宇宙探査における中核になっている。

 

解放軍以外の宇宙開発関連の機関としては、国務院の工業・情報化部に所属する「国防科技工業局(SASTIND)」が非常に重要な組織だ。国防科技工業局は、①中国の宇宙計画の策定・実施、②宇宙関連機関・企業の管理・監督、③宇宙研究開発費の割り当てなど、④軍事調達を監督する解放軍組織との実務的関係の維持、⑤中国の宇宙活動をおこなう国有企業の政策的指導を担当している。

 

また、中国国家航天局(CNSA)は国防科技工業局の管理下で、中国の民間宇宙開発の公の顔として、世界各国との関係を強化している。

 

ロケット、人工衛星、宇宙船などを開発・製造しているのは中国航天科技集団公司と中国航天科工集団公司というふたつの巨大企業だ。

 

衛星の打ち上げなどの実務面を担当しているのは解放軍―有人宇宙計画は装備発展部、無人宇宙計画は戦略支援部隊―で、国防科技工業局は解放軍の指導を受ける立場にある。つまり、中国の宇宙開発は、一部の民生分野や科学研究を除き、ほとんどが軍の統制下にあると言える。

 

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本連載は渡部悦和氏の著書『日本はすでに戦時下にある すべての領域が戦場になる「全領域戦」のリアル』(ワニプラス)より一部を抜粋し、再編集したものです。

日本はすでに戦時下にある

日本はすでに戦時下にある

渡部 悦和

ワニブックス

中国、ロシア、北朝鮮といった民主主義陣営の国家と対立する独愛的な国家に囲まれる日本の安全保障をめぐる状況は、かつてないほどに厳しいものになっている。 そして、日本人が平和だと思っている今この時点でも、この国では…

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