事実か否かよりも面白さを重視している
■SNSの問題:偽情報や誤情報の流布をいかに防ぐか
現代は「フェイクの時代」だと私は思っている。2016年の米大統領選挙以降に顕著になった誤情報や偽情報などの有害情報やヘイトスピーチなどのSNS上での氾濫は「ポスト真実」の時代のひとつの表れだ。
▶事実は虚偽に負ける!?
情報を受け取る者にも問題がある。人はみたいものをみて、聞きたいものを聞き、読みたいものを読む傾向がある。人々はSNSを通じて事実か否かよりも面白さを重視して情報収集し、それを好んで拡散する。また、すでにもっている先入観に合致する情報を選択的に収集し、拡散する傾向がある。SNSで同じような考えの人とつながることを好み、自分が信じたい情報を好み、好みの情報を流布することにより、フェイクニュースが急速に拡散されていく。
以上のような議論をMITの研究が裏付けている。ツイッターでの情報の拡散に関するMITの研究によると、ネット上では真実に基づく書きこみよりも誤情報や偽情報に基づく書きこみのほうが注目され、はるかに広く速く拡散する。そして、ボットではなく人間が偽情報を拡散していることが証明されている。
偽情報を信じている人々は事実に基づくニュースにふれたとしても、「正しい情報にふれた」とは思わない。彼らにとって報道の事実性はさして重要ではない。多くの人々は、明確な間違いを指摘されても、間違いを認めることはなく、自らの世界観にさらに固執する傾向がある。SNSの利用者は、信頼性の低いニュースをくりかえし投稿するサイトを共有する傾向がある。
SNS上の偽情報を削減する方策として、「徹底的なファクトチェックをする。科学的で正しいものを伝える。デマを許さないというキャンペーンをする」などはひとつの考え方だが、それだけでは偽情報・誤情報の拡散を止めることはできない。いくら正しい情報を流したところで、その情報が相手に届かなければ問題は解決しないのだ。
▶アテンション・エコノミー(注目経済圏)
偽情報や誤情報はいかなるメカニズムによって、広がり浸透するのか。それについては「アテンション・エコノミー」の効果が注目されている。フェイスブックやユーチューブなどのビジネスモデルのベースは、人々が閲覧し、クリックすることでコンテンツ提供者に収入が発生するネット広告の仕組みだ。この構造全体は「アテンション・エコノミー」と呼ばれている。
アテンション・エコノミーの理論は、米国の社会学者のマイケル・ゴールドハーバーが1990年代後半に世に広めたが、以下のような内容だ。
〈インターネットの普及などで発信される情報は爆発的に増えたが、人がもつ時間は限られる。だから人々のアテンション(注目・関心)は価値ある希少な資源となり、これを獲得するために猛烈な競争が繰り広げられる。いきおい情報の中身よりも人々の関心をひき付けること自体が優先され、真実がゆがめられる。〉
ネットで収入を得たい個人や企業は積極的に偽情報を拡散する。偽情報のほうが刺激的で面白くて、多くの人が閲覧し、「いいね」をクリックし、多くの収入を得ることができるからだ。ここにつけこんでいるのが中国やロシアなど、影響工作を展開している国家だ。
ネット上に流布する偽情報や誤情報の悪影響を抑える方法として、情報発信そのものを制限するよりも、情報拡散にともなう金の流れに着目して対処しようという考え方が広がりはじめている。発信者に広告収入を与えなければ、言論の自由を守りながら、偽情報の防止に一定の効果を期待できるのではないか。
内外の研究でSNS内のデマの震源や拡散者は少数であることがわかっている。少数者をターゲットとして、金儲け目当てのデマ情報の流布を止める方策が有効だと思う。例えばユーチューブは2021年9月29日、新型コロナに限らずあらゆる反ワクチン論のチャンネルを停止するという発表に踏み切った。これには一定の効果があった。